金田一耕助の事件簿037
こちらも緑ヶ丘(金田一引っ越し前)の殺人事件です
「黒い翼」(横溝正史)
(「毒の矢」)角川文庫
自殺した藤田蓉子の後を継ぐ形で
映画スターに上りつめた
原緋紗子。彼女の元にも
多くの「黒い翼」が届いていた。
「黒い翼」、それは
真っ黒に塗りつぶした葉書に
鉛筆書きされたいわゆる
「不幸の手紙」だった。
蓉子の一周忌の席上で…。
今年(2022年)4月に復刊された
横溝正史「毒の矢」に
併録されている短篇作品です。
前回、「女の決闘」を取り上げた際、
「金田一耕助の町内で起きた殺人事件」と
書きましたが、こちらも緑ヶ丘
(金田一はまだ引っ越していない)で
起きた殺人事件です
(緑ヶ丘での事件には「毒の矢」もある)。
【事件簿File-037「黒い翼」】
〔事件発生〕
昭和31年(東京・成城)
〔依頼人〕
該当者なし
※橘署長からの捜査協力依頼
〔捜査関係者〕
橘署長…緑ヶ丘署長。
島田警部補…緑ヶ丘署捜査主任。
〔事件関係者〕
原緋紗子
…売れっ子映画女優。
親友の藤田蓉子邸を購入。
藤田蓉子
…映画女優。一年前に変死。
藤田貞子
…蓉子の妹。緋紗子の秘書。
丹羽はるみ
…東亜映画三枚目女優。
石川賢三郎
…東亜映画監督。
三原達郎
…東亜映画人気男優。
土屋順造
…蓉子の元マネージャー。
梶原修二
…新聞記者。
小泉省吾
…緑が丘の開業医。蓉子の主治医。
本作品の味わいどころ①
金田一の眼前で起こる二重殺人事件
蓉子の一周忌の席上には
金田一も同席していました。
参加していたのは金田一を除くと
緋紗子・貞子・はるみ・石川・三原・
土屋・小泉の七名。
そのうち土屋と小泉が
一年前の蓉子と同じ砒素を盛られて
絶命するのです。
犯人は残り五人のうちの誰かなのです。
金田一の眼前で7人中
2人が殺害されるという
とんでもない事件なのです。
それにしてもこの人数であれば、
金田一も容疑者の一人として
捜査されてしかるべきですが、
「毒の矢」事件ですでに
緑ヶ丘署から絶大な信頼を
得ていたということでしょう。
本作品の味わいどころ②
事件と関連する不幸の手紙「黒い翼」
不幸の手紙である「黒い翼」。
それがこの事件とどう関わるのか?
読み手の不安をかき立てるための
いつもの小道具の一つと思っていたら、
その発信は意外にも…。
事件への絡め方のうまさは
さすが横溝です。
本作品発表は1956年。作品中では
「幸福の手紙」の流行については
言及されているのですが、
この時代、「不幸の手紙」は
まだ存在していませんでした
(「不幸の手紙」の登場は
1970年代に入ってから)。
もしかしたら本作品の「黒い翼」が
不幸の手紙の発端となったのでしょうか
(タイムラグがあるのですが)。
本作品の味わいどころ③
登場人物誰もがみな怪しく疑わしい
もちろん、
外部犯行の可能性はありません。
したがって5人が5人とも
みな疑わしいのです。
このあたりの人物設定もまた
横溝の妙技が光っています。
さて、真犯人は誰なのか?
高級住宅街・緑ヶ丘での事件、
橘署長・島田警部補などの
捜査陣の顔ぶれ、
「誹謗中傷文」あるいは
「脅迫文」ともとれる文書、
限定された容疑者、等々、まるで
「毒の矢」の続編のような一作です。
それもそのはず、本作品は
「毒の矢(原形版)」発表の翌月に
別雑誌に掲載された、
まさに続編的タイミングで
発表されているのですから。
角川文庫でも両者は一冊の本として
まとまっています。
さて、続々と復刊相次ぐ
角川文庫の横溝正史作品。
金田一耕助シリーズはまもなく
全77作品(原形作品やジュヴナイルを
除く)が揃う予定です
(5月には「幽霊座」と「死仮面」、
6月には「金田一耕助の冒険」)。
できれば由利・三津木作品、
ノン・シリーズ作品も
すべて復刊することを願っています。
(2022.4.29)
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