いつ迫るか知れない危機を警告しようとする一冊
「太陽と地球のふしぎな関係」
(上出洋介)講談社ブルーバックス

「絶対君主と無力なしもべ」。
サブタイトルとして付されている
この言葉が、本書の内容の骨子を
十全に表しています。
太陽は絶対的な君主であり、
その活動の変化は
無力なしもべである地球と
その住人たる人間に、
その生死を左右するほどの
大きな影響を与えているのです。
宇宙に関する科学書を読んで
ロマンに浸ることが多いのですが、
本書は読むものの背筋を寒くする、
いつ迫るか知れない危機を
警告しようとする一冊なのです。
【本書の章立て】
第1章
疑問だらけのありふれた星・太陽
第2章
生きる地球の「守護神」大気と磁場
第3章
太陽と地球の関係を語るオーロラ
第4章
太陽がくしゃみをしたら
第5章
地球生命への影響は?
第6章
太陽がつくる地球周辺の宇宙大気
第1章では、
現代科学が解明している
太陽の概略について
わかりやすく説明されています。
夜空に輝く星々である
恒星の中にあって太陽は、
決して特殊な天体ではなく、
ごくありふれたものであることが
述べられています。
そしてそれとともに太陽は
「母なる恵みの星」などではなく、
「荒ぶる星」であることが
説明されているのです。
第2章では、
その「荒ぶる星」太陽からの「攻撃」を、
大気と磁場が守る作用として
はたらいていることが
述べられています。
生命が存在できる環境は、
実は微妙なバランス関係の上に
成り立っていることが解ります。
第3章では、
その太陽からの「影響」が
目に見える形で現れたのが
オーロラであることを説明し、
その美しさの陰にある
危険な兆候について説明しています。
続く第4章では、ほんの一瞬、
太陽がくしゃみをしたような
現象であっても均衡が破られ、
そうした危険な兆候が地球と人間に
襲いかかってくることが示されます。
そして第5章では、地球生命、
特に人間にとっての影響について
考察が述べられています。
宇宙が私たちの想像を超えた
危険な領域であり、
生命が地球によって
いかに保護されているかが
実感できます。
最後の第6章では、危機回避、
つまり宇宙の「天気予報」の
重要性について述べられています。
地震や火山噴火といった自然災害同様、
荒ぶる太陽からの危機的被害を
最小限にするための取り組みが
大切であることを訴えています。
こうしてみると、地球環境は今、
人間の経済的活動によって
危機がもたらされているという認識が
広まっているのですが、
それ以上に太陽からの影響が
非常に大きなものであり、
それを含めて考えていかなければ
ならないことを痛感させられます。
気温が上昇しているから
化石燃料の使用をやめよう、といった
単純な問題ではないのです。
宇宙を語った本ではありません。
あくまでも地球環境について
これまでとは異なった角度から
検証した一冊なのです。
多少難しい知識が
用いられてはいるのですが、
高校生、そして若い人たちに
読んでほしい一冊です。
地球について、そして環境について、
視野が広がることは確実です。
(2022.5.11)

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