ところがそれで終わりではありません
「おさる日記」(和田誠)
(日本文学100年の名作第6巻)
新潮文庫
×月×日
おとうさんがかえってきた。
おとうさんはおみやげを
ぼくにくれた。
おさるをくれた。
まだちいさいおさるです。
×月×日
おさるに
名前をつけることにした。
もんきちという名前にしました。
×月×日
もんきちはすっかり…。
ひらがな主体の、
小学校低学年児童が書いた日記風の
構成のショートショートです。
船乗りのお父さんが
息子・しんちゃんへのお土産に
買ってきた本物の「おさる」。
「もんきち」と名付けられるのですが、
バナナの皮を剥いたり、
積み木で遊んだり、
テレビのスイッチを入れたりと、
順調に知能を発揮していきます。
ところが、しんちゃんが小学校で
「おさるがだんだん人間になった」という
進化の話を聞いてきたあたりから
次第に様子がおかしくなります。
もんきちは徐々に体毛が脱落し、
尻尾が短くなり、
お母さんのつくった
服や靴下を身につけ、
言葉を話し…。
粗筋の末文は以下のように続きます。
「もんきちはすっかり
人間のこどもになってしまった」。
「進化」については
一般的に誤解されている部分が
多々あるのですが、その一つは
「ヒトはサルから進化した」という
誤りでしょう。
正確には「ヒトとサルは
共通の祖先から別れて進化した」と
いうべきです。
決してサルがヒトに
なるわけではありません。
本作品の発表は1966年。
ダーウィンの進化論が一般にも浸透し、
同時に遺伝子によって
形質が親から子へと伝わることが
教科書にも掲載されるようになった
時期です。
こうした初歩的な「誤解」を活用して、
思わずクスリと笑わせてくれる作品を
創りあげています。
ところがそれで終わりではありません。
最後の一文に、
さらなる強烈なユーモアが
隠されています。
ショートショートは、
結末のどんでん返しが勝負ですので、
それについては
ぜひ読んで確かめてください。
それにしてもイラストレーターとして
有名な和田誠氏。
週刊文春の表紙画は亡くなって以降も
使用が継続される人気ぶり、
タバコ「ハイライト」のパッケージも
氏のデザインです。
イラストだけでなく
ショートショートも書くのかと思い、
巻末の解説を見ると、
似顔絵、絵本、作詞作曲、
ショーの構成、アニメーション制作、
映画の脚本・監督、映画エッセイ、
ノンフィクション、ミステリー、
マザーグースの翻訳とあります。
なんと
マルチ・クリエイターなのでした。
〔本書収録作品一覧〕
1964|片腕 川端康成
1964|空の怪物アグイー 大江健三郎
1965|倉敷の若旦那 司馬遼太郎
1966|おさる日記 和田誠
1967|軽石 木山捷平
1967|ベトナム姐ちゃん 野坂昭如
1968|くだんのはは 小松左京
1969|幻の百花双瞳 陳舜臣
1971|お千代 池波正太郎
1971|蟻の自由 古山高麗雄
1972|球の行方 安岡章太郎
1973|鳥たちの河口 野呂邦暢
(2022.5.12)
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