「板張りの窓」「豹の目」(ビアス)

「死」という素材を用いて編み上げた短篇

「板張りの窓」「豹の目」
(ビアス/小川高義訳)
(「アウルクリーク橋の出来事/豹の目」)
 光文社古典新訳文庫

「アウルクリーク橋の出来事/豹の目」

森の奥に住んでいる
マーロックは、病で妻を亡くす。
悲嘆に暮れたまま
眠りに落ちたマーロックは、
おぞましい声によって
目を覚ます。
何が彼を起こしたのか?
恐怖の中で彼は銃を取り、
発砲する。
閃光に浮かび上がった正体は…。
「板張りの窓」

ブレイディングからの
求婚を断り、
アイリーンは家を飛び出る。
闇に消えた女を
ブレイディングは見送るが、
その闇の中に光る豹の目を見る。
その夜、開いた窓から
豹が部屋へと忍び込む。
恐怖に襲われながらも
彼は拳銃を放つが…。
「豹の目」

死を描き続けた
アンブローズ・ビアスの、
やはり身も凍るような恐怖を描いた
二篇です。
どちらも男が悲しみに暮れて
眠っている間に豹が忍び込み、
その恐怖をはねのけ、
銃を撃つという似通った筋書きです。
物音で目が覚めたら
暗闇の中に豹の目が光っていた。
現代ではあり得ませんが、
十九世紀アメリカの
大森林に住んでいるのですから、
十分にあり得る話です。
その恐怖はいかばかりか。
幸いどちらも男は命拾いするのですが、
その後がさらなる「恐怖」と「悲しみ」に
彩られます。

「板張りの窓」では、
豹は逃げ出したものの、
傍らの妻の遺体は喉元を無残に
食いちぎられていたのです。
しかしそれは「恐怖」でも「悲しみ」でも
ありません。
なんと妻の口元には…。
ぜひ読んで確かめてください。

一方、「豹の目」では、男の銃弾は
対象を射貫いているのですが、
「だが死んでいたのは豹ではない」。
何が死んでいたのか書かれていません。
しかし想像はつきます。
さらにはその前に描かれている
アイリーンの姉の死と
自身の生い立ちの謎が、
読み手にいくつもの可能性を
考えさせずにはいられない
仕組みとなっているのです。
アイリーンは
ブレイディングを愛していながら
結婚を頑なに拒んだ理由は?
アイリーンの「生まれ方」の問題とは?
アイリーンは何者?
ぜひ読んで想像してみてください。

ホラー小説と
捉えるべきではありません。
必要以上に
恐怖をかき立ててはいない上、
恐怖をかき立てるのを
目的ともしていないのです。
ビアスはあくまでも
「死」という素材を用いて
短篇を編み上げているだけなのです。
読み手には、
作品の異形な姿の奥に潜むものを
掬い上げるという作業が
求められるのです。
ビアスはやはり、
一筋縄ではいかない作家です。

〔本書収録作品一覧〕
アウルクリーク橋の出来事
良心の物語
夏の一夜
死の診断

板張りの窓
豹の眼

シロップの壼
壁の向こう
ジョン・モートンソンの葬儀
幽霊なるもの
レサカにて戦死
チカモーガの戦い
幼い放浪者
月明かりの道

(2022.6.6)

Mystic Art DesignによるPixabayからの画像

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