「夢見る帝国図書館」(中島京子)①

謎解きを通して提示される「女性の生き方」

「夢見る帝国図書館」(中島京子)
 文春文庫

「上野の図書館のことを
書いてみないか」。
上野公園で出会った
喜和子さんから、
そう持ち掛けられた
作家の「わたし」。
図書館が主人公の小説を
書こうとして
できなかったのだという。
喜和子さんは終戦直後の思い出を
語り始める…。

本好きにはたまらない表題であり、
単行本出版(2019年)時から注目し、
早く文庫化しないかと
首を長くして待っていました。
失敗でした。
待たずにすぐ読むべき素敵な作品です。
こんな魅力ある作品との出会いを
2年間も先延ばししていたとは。
反省しています。

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今日紹介した本

【主要登場人物】
「わたし」
…作家。60年代生まれ。
喜和子
…「わたし」が出会った高齢の女性。
 「夢見る図書館」の執筆を
 「わたし」に依頼する。
古尾谷放哉
…元大学教授。喜和子の友人で元愛人。
谷永雄之助
…喜和子の借家の2階に
 間借りしていた学生。
椚田…古書店どんぐり書房店主。
祐子…喜和子の娘。宮崎在住。
紗都…喜和子の孫。仙台で生活。

本作品は、ある意味、
喜和子の謎に満ちた前半生を解き明かす
ミステリの一面を持っています。
一つは、彼女が
子ども時代を語るときには少なからず
空想が織り込められている点です。
それはどうやら「夢見る図書館」と
密接に関係があることが
判明していきます。
もう一つは、不幸な結婚をした彼女が
子育てを終えた後に決行した
家出の真相が、
誰にも語られていない点です。
物語中盤から登場する
喜和子の孫娘・紗都が、
その心情に迫っていきます。

本作品の骨格となる、
「わたし」が「夢見る図書館」の
構想を練る過程は、さながら
喜和子の生き方における(上に記した
2点の)謎の解明のようなものです。

さらには作中作である
「夢見る帝国図書館」における
女流作家たちの悲哀も
その謎解きに絡んできます。
生活苦に耐え、
一年半というわずかな期間に
「にごりえ」「十三夜」といった
名作を生み出し、
わずか24歳で夭逝した樋口一葉
男性に幻滅して
同性愛に走ったとされる作家であり、
女性史を題材とする
優れた作品を遺した吉屋信子
「貧しき人々の群」の発表により
天才少女として脚光を浴びた後、
政治活動により
再三検挙された宮本百合子
貧困に苦しめられながらも、
明るくたくましく生き抜いた林芙美子
それぞれの生き方が
喜和子自身の生き方と
交錯していくのです。

読み進めるにつれて明らかになるのは、
周囲から「女としての生き方」を
強要され続けてきた喜和子の悲しみと、
その反動としての「自由」への希求です。
日本の社会が抱える
「男尊女卑」の問題が
炙り出されるとともに、
これからの時代の「女性の生き方」が、
決して声高にではなく
静かに語られていきます。

ミステリの手法を用いながら、
女性の生き方在り方について考えさせる
深い主題を本作品は内包しています。
これが本作品の味わいどころの
一つとなっています。
ぜひ本書を手にしてじっくりと
その滋味を味わってください。

(2022.6.27)

Foundry CoによるPixabayからの画像

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