「お千代」(池波正太郎)

主役は猫!やはり本作品は「猫小説」

「お千代」(池波正太郎)
(「日本文学100年の名作第6巻」)
 新潮文庫

大工・松五郎は、
女よりも飼猫・お千代を
愛する男だった。
ところが棟梁の強い要求により、
ついにおかねという女房を持つ。
ある日、松五郎の仕事場に
お千代が興奮して現れる。
家で何事かが起きたのではと
松五郎が駆けつけると…。

駆けつけたお千代(猫)の様子から、
松五郎は家で何かが起きたことを
察知するのです。
火事?空き巣?しかし
松五郎が縁側の障子を開けると…、
女房のおかねが医師・道竹と
逢い引きの真っ最中。
しかもその最中、
仕事場に残してきた松五郎の弁当を
食べた乞食が血を吐いて死亡。
まさかの不倫殺人事件発生。
なのですが、本作品は
そのような暗い筋書きではありません。

【主要登場人物】
松五郎
…腕のいい大工。
 三十二で初めて所帯を持つ。
お千代
…松五郎の飼い猫。松五郎に愛される。
おかね
…松五郎の妻。ほとんど交渉のない
 松五郎に嫌気がさしている。
吉田道竹
…町医者。おかねと不倫。
喜兵衛
…「大喜」棟梁。松五郎の師匠。
おふさ
…松五郎の二度目の女房。
 わずか五日で離縁。

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今日のオススメ!

本作品の味わいどころ①
猫好き・松五郎の平和な人格

おかねが不倫に走るのも
致し方ありません。
せっかく結婚したにもかかわらず、
性交渉は月に一度程度で
しかも「あっという間に
終わってしまう」のですから、
二十六歳の女盛りとしては
やるせない思いだったのでしょう。
それほど松五郎は
お千代を愛していたのです。

「うちのお千代がね、
目刺を焙っているとね、焼けるとね、
ひょいとひっくり返してくれるのさ」
「お千代め、尻尾を、
こう軽く振ってね、
はずかしそうに笑うのだよ」などと
大工仲間に語っているのですから、
相当なものなのです。

本作品の味わいどころ②
かといって松五郎は人嫌いではない

松五郎は昼食時も一人で食べます。
それでいて現場では棟梁の代理として
職人を束ね、
しっかり仕事をこなしています。
松五郎は決して
人嫌いなのではないのです。
ただの(異様なほどの)
猫好きなだけなのです。

その松五郎の人柄が表れているのが
終末部分です。
十四年の島流しを終えて
四十になって帰ってきたおかねを、
松五郎は迎えにいき、
もう一度一緒に暮らすことを
持ち掛けるのです。

本作品の味わいどころ③
主役はお千代・本作品は「猫小説」

表題が「お千代」である以上、
主役は猫・お千代なのです。
松五郎に焦点が当たっているように
見えてその実、
作者・池波正太郎が描きたかったのは
「お千代」なのです。
松五郎の一風変わっていながらも
深い人情家であるその性格は、
お千代によって育まれたものだと
考えられます。

作品冒頭に、
松五郎が欠かさなかった昼飯について
記されています。
「炊いた御飯へ、
 鰹節のかいたのをまぜ入れ、
 醤油をふってやんわりとかきまぜ、
 ちょいと蒸らしてから、
 これをにぎりめしにして、
 さっと焙った海苔で包む」

いかにも猫が好みそうな御飯です。
もしかしたら松五郎は
猫化していた!?
やはり本作品は「猫小説」なのです。

〔本書収録作品一覧〕
1964|片腕 川端康成
1964|空の怪物アグイー 大江健三郎
1965|倉敷の若旦那 司馬遼太郎
1966|おさる日記 和田誠
1967|軽石 木山捷平
1967|ベトナム姐ちゃん 野坂昭如
1968|くだんのはは 小松左京
1969|幻の百花双瞳 陳舜臣
1971|お千代 池波正太郎
1971|蟻の自由 古山高麗雄
1972|球の行方 安岡章太郎
1973|鳥たちの河口 野呂邦暢

(2022.7.14)

Dimitris VetsikasによるPixabayからの画像

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