「方丈記」(鴨長明)

八百年前の日本に、現代は酷似している

「方丈記」(鴨長明/蜂飼耳)
 光文社古典新訳文庫

「方丈記」光文社古典新訳文庫

川の流れは絶えまなく、
その水はいつも入れ替わり、
もとの水はとどまらない。
よどみに浮かぶ泡は、
消えたかと思うと生まれ、
いつまでもそのまま、
ということはない。
世の中の人間も、その住まいも、
それと同じだ。美しい…。

と、現代語訳の冒頭を
粗筋代わりに掲げましたが、
原典はよく知られている
「ゆく河の流れは絶えずして、
 しかももとの水にあらず。
 よどみに浮かぶうたかたは、
 かつ消えかつ結びて、
 久しくとゞまりたるためしなし」

まさに名文です。
つい声に出して読みたくなるような
小気味よさがあります。
現代語訳はそれに比して
味わいが薄まっているように感じるのは
致し方ありません。
しかし、全文を
原典で読み通すとなると、
原稿用紙換算で二十数枚程度といわれる
本作品も、大意こそ読み取れるものの、
細かな描写を味わうには、
私を含めた一般人には
少し骨の折れる仕事となります。
だからこその、現代語訳です。

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実は初めて読みました。
同じ古典日本三大随筆の一つである
兼好法師の「徒然草」
似たようなものだろうと、
勝手な想像をしていましたが、
全く異なる味わいです。
前半は十二世紀末に起きた
天変地異に関わる災害記録ともいうべき
ものであり、後半は、
そうした災害を経て達した
自らの心の境地を吐露したものと
なっています。
本来味わうべきは後半部なのですが、
私はむしろ前半部に注目します。
ここには、
「安元の大火」
「治承の竜巻」
「福原遷都」
「養和の飢饉」
「元暦の地震」についての
鴨長明の見解が記されています。

火の不始末が原因の出火が
またたく間に都に燃え広がり、
朱雀門・大極殿・大学寮・民部省などが
一夜のうちに灰となった様子
(「安元の大火」)、
発生した竜巻が市街地を蹂躙
(「治承の竜巻」)、
旱魃、大風、洪水が続き、
疫病が広がったため、
餓死者が相当数に上ったこと
(「養和の飢饉」)、
巨大地震が京都を襲い、山崩れ、
津波等の災害に見舞われたこと、
さらにはその余震が
三ヶ月ばかりも続いたこと
(「元暦の地震」)が、
次々と記されています。
ではなぜその中に
「福原遷都」が紛れ込んでいるのか?

「福原遷都」とは、1180年、
京都から摂津福原へと都を移した、
平清盛による政策であり、
天変地異ではありません。
源氏挙兵等の政情不安や
寺院勢力の増大を避けるために
行われたのですが、
都城造営も進まぬうち、再び
京都に都を戻さざるを得なくなった、
一時的遷都です。
権力者の意向で進められた愚策により、
公家をはじめとする
多くの民が苦しんだ様子が、
「方丈記」には描かれます。

改めて災害の記述を読むと、
それぞれの災害について
「自然災害」の面よりも
「人災」の側面が強調されていることに
気づきます。
作者・鴨長明は、これらの災害を
「人災」と位置づけていたのでしょう。
だからこそ、
それらの「人災」にも匹敵する
「福原遷都」を紛れ込ませ、
暗に権力者の愚行を
非難したとも考えられます。

現代を顧みると、
「東日本大震災」での
「福島第一原発事故」や、
「集中豪雨」によって
違法な盛り土が決壊した
「熱海市伊豆山土石流災害」などは、
まさに「人災」と
いわざるを得ないものです。
そして「上がらない賃金」等、
「無策政治」も続いています。
鴨長明が生きていた八百年前の日本に、
現代は酷似しているように
思えてなりません。

だからこそ、この「方丈記」は、
現代の若い人たちに
読まれるべき作品だと思うのです。
原典では難しくとも、
現代語訳ならわずかな時間で
読み通すことができます。
若い人たち(に限らないが)の
活字離れが一層進み、
ましてや古典などには
見向きもしないのでしょうが、
なんとかその間を
つなぐことができればと思い、
本記事をしたためました。

(2022.7.18)

※本書は次のような構成です。
 原典も載せられ、資料も豊富であり、
 鴨長明の思想を
 立体的に感じることができます。
〔本書構成一覧〕
訳者まえがき
方丈記
エッセイ
方丈記 原典
付録:「新古今和歌集」所収の
 鴨長明の和歌
付録:「発心集」巻五、一三
 「貧男、差図を好む事」訳と原文
図版
解説:蜂飼耳
年譜
訳者あとがき

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