騙される金田一、悔しがる金田一
「鞄の中の女」(横溝正史)
(「金田一耕助の冒険」)角川文庫
自動車のトランクから
はみ出ていた人間の脚。
それは警察の捜査で
石膏像であることが判明した。
しかし、
石膏像の持ち主を知る人物から
「不安なことがある」と、
金田一は相談を受ける。
アトリエの鍵穴から
覗いてみると、そこには…。
先日角川文庫から復刊した
横溝正史「金田一耕助の冒険」の中の
一篇です。
金田一が鍵穴から覗いた向こうには、
石膏像を抱きかかえるように
倒れている
全裸の女性の死体の脚が見えたのです。
続いて第二の殺人事件が起きます。
【事件簿File-049「鞄の中の女」】
〔事件発生〕
昭和29年4月6日(東京・阿佐ヶ谷)
〔依頼人〕
該当なし(警察への捜査協力)
※依頼ではなく相談として
駒井昌子
…金田一に電話で相談。
駒井泰三
…昌子の夫。キャバレー経営。
〔捜査関係者〕
池部警部補…所轄署捜査主任。
海野刑事・山口刑事…所轄署刑事。
新井刑事…警視庁捜査一課刑事。
等々力警部…警視庁捜査一課警部。
〔事件関係者〕
片桐梧郎
…石膏像を運んだ車を運転していた
彫刻家。昌子の兄。
望月エミ子
…梧郎が造った石膏像のモデル。
昌子の友人。殺害される。
緒方由紀子
…梧郎の元妻。以前、駒井の経営する
キャバレーにいた。殺害される。
安井友吉
…酒屋の小僧。トランクから出た
片脚を目撃。
〔事件の概要〕
①車のトランクから人間の脚が
出ていることが目撃される
→石膏像であることが判明
②金田一に事件相談の電話
③相談主とともに
片桐邸へ移動した金田一が、
ドアの鍵穴から女の脚を目撃
④望月エミ子が死体で発見される
⑤緒方由紀子が死体で発見される
本作品の味わいどころ①
石膏像に死体は塗り込められているのか
車のトランクから石膏像の脚が
はみ出ていたという設定は、
横溝お得意の書き出しです。
同じ金田一ものでは
「堕ちたる天女」(1954年)、
由利・三津木コンビの作品では
「石膏美人」(1936年)、
ジュヴナイルにおいても
「蠟面博士」(1954年)で、
さらには本作品の後に執筆され、
本書「金田一耕助の冒険」に
収録されている「柩の中の女」にも
この設定が使用されているのです。
それらはすべて石膏像の中に死体が
塗り込められていて、
そこから事件が始まるというものです。
本作品の冒頭に登場する
石膏像の中からも
死体が発見されるはず、
そう思いながら読み進めましたが、
死体はなかなか現れません。
石膏像の中に死体はあるのかないのか、
そのドキドキ感を
まずはしっかり味わいましょう。
本作品の味わいどころ②
最新機器テープレコーダーが事件を解決
事件解決のヒントとなったのは、
テープレコーダーに吹き込まれていた
電話の女性の声でした。
本作品は金田一が、
このテープレコーダーを
最先端の機器として活用(たまたま
使っただけなのですが)していたことが
描かれています。
今の若い人たちであれば、
「テープレコーダーって何?」
「カセットテープって何?」と
なるところでしょうが、
本作品発表の昭和32年であれば
十分に最新機器です。
時代を感じさせます。
最新機器を使って事件を解決する
金田一の姿を、
次にじっくりと味わいましょう。
本作品の味わいどころ③
騙される金田一、悔しがる金田一
実は犯人グループから
アリバイ作りのために
自身が利用されていたことに、
金田一は気づくのです。
犯人から直接的に騙される金田一も
珍しいのですが、
憤慨して悔しがる金田一も
珍しいところです。
特殊詐欺の横行する現代を
遡ること65年、
なりすまし電話に騙されたのは
金田一が第一号だった!?
騙される金田一と悔しがる金田一、
金田一のその人間くささを、
たっぷりと味わいましょう。
さて、
本書「金田一耕助の冒険」をもって、
角川文庫の金田一耕助シリーズは
すべて復刊され、出そろいました。
つい昨日は、ジュヴナイルの
「迷宮の扉」「黄金の指紋」も復刊、
8月には
「大迷宮」「仮面城」と続きます。
この流れを止めずに、
旧角川文庫の全横溝作品の復刊、
そして
漢字一文字のデザインの表紙から
杉本一文画伯のものへの切り替えを、
横溝ファンとして強く願うところです。
(2022.7.22)
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(2024.9.18)
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