「鳥と雲と薬草袋/風と双眼鏡、膝掛け毛布」(梨木香歩)

「土地の名前」に潜んでいるものの意味や価値

「鳥と雲と薬草袋/
 風と双眼鏡、膝掛け毛布」(梨木香歩)
 新潮文庫

「鳥と雲と薬草袋/風と…」

ひとはこんなにも分かち難く
土地と結びついている。
長い年月をかけて
思いをかけられた地名は、
ときに生きていく
エネルギーを鼓舞し、
ときに鎮魂の役割もしてきた。
今いる場所から
風が訪れていくように
遠いその土地を思う…。

梨木香歩のエッセイを読み終えました。
訪れた土地についての地名を巡る探究の
エッセイともいうべきものです。
全部で112カ所の地名について
思いが巡らされています。
「鳥と雲と薬草袋」
「風と双眼鏡、膝掛け毛布」という、
同じ趣旨で書かれた二つの単行本を、
文庫化にあたって
一冊にまとめたのが本書です。

今日のオススメ!

【本書の内容~目次から】
〔「鳥と雲と薬草袋」〕
タイトルのこと
まなざしからついた地名
 鶴見 富士見 魚見
文字に倚り掛からない地名
 姶良 諏訪 田光 戸畑 由良
消えた地名
 京北町 栗野町 稗貫郡 武生
正月らしい地名
 松ノ内、月若
新しく生まれた地名
 四国中央市 南アルプス市 蒲郡
 東近江市 八峰町
温かな地名
 日向 日ノ岡 椿泊 小雀 生見
峠についた名まえ
 善知鳥峠 星峠 月出峠 冷水峠
 杖突峠
岬についた名まえ
 宗谷岬 禄剛崎 樫野崎 佐田岬
 長崎鼻
谷戸と迫と熊
 殿ヶ谷戸 小さな谷戸 水流迫
 唐船ヶ迫 熊
晴々とする「バル」
 長者原 西都原 新田原 催馬楽
いくつもの峠を越えて行く
 山越 三太郎越 二之瀬越
 牧ノ戸峠
島のもつ名まえ
 風早島 甑島列島 ショルタ島
あとがき
〔「風と双眼鏡、膝掛け毛布」〕
タイトルのこと

塩の道・三州街道の地名
 足助 伊那
塩の道・千国街道の地名
 安曇野(保高宿)
塩の道・秋葉街道の地名
 御門・政所 相良
塩の道・塩津海道の地名
 塩津
北陸道の地名
 岩瀬
熊野街道の地名
 紀伊長島 尾鷲 八軒屋 布施屋
東海道の地名
 大津 石場(大津宿) 矢橋(草津宿)
 頓宮(土山宿) 生野(土山宿)
 知立(池鯉鮒宿)
日光街道の地名
 箱根ヶ崎 雀宮 五十里

大の字のつく地名
 大洗 大湊 大曲 大月 大沼 大熊
ざわっとする地名
 姨捨 毒沢 銭函 花市場 無音
 犬挟 シタクカエ
植物系の地名
 宿根木 三本木 青梅 麻績 楢葉
湖川の傍にある地名
 大洞 海ノ口・海尻 湊・川岸 行方
 潮来 子ノ口 犬落瀬 開発・浮気
 小河内 丹波山 生保内・広久内
アイヌ民族由来の地名
 蕪島 種差 是川 母袋子 鮫
 星置 鷹栖 熊牛 (かりかん)
 安瀬 濃昼 利尻
国境の地名
  人里 数馬 猿ヶ京 法師 道志
沖縄の地名
 普天間 読谷山 喜名 今帰仁
 平良 東風平 富盛
あとがき
※詳しくはこちらから

本書の味わいどころ①
美しい日本語による美しい情景描写

風光明媚な観光地を紹介する
紀行エッセイなどではありません。
たとえそこが観光に適さない
辺鄙な場所であっても、
その土地の最も美しい風景を、
的確に掬い上げ、
美しい日本語で綴っています。
それはあたかもその土地の空気感や、
生活している人間の呼吸まで
伝わってくるかのようです。

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本書の味わいどころ②
人間の在り方、この国の在り方を問う

それだけで終わっていません。
その土地に起きた過去の出来事、
特に乱開発の結果としての
環境破壊について鋭く指摘しています。
ダムや高速道路建設による故郷の喪失、
自然破壊、野生生物の減少、
その結果としての地域の衰退、
そうしたものを一つ一つ拾い上げ、
人間の愚かな行いに
警鐘を鳴らしています。

「第二次世界大戦前夜、
 殖産興業の一環としてこの玉川の
 「毒水」を田沢湖に引き入れ、
 ダム湖にしようという
 計画が持ち上がり、
 それが実行された結果、
 固有種だったクニマスが絶滅した。
 おまけに田沢湖を海とつないでいた
 唯一の川、潟尻川への
 流出口を塞いだので、
 ウナギなどの海からの生物が
 入ってくることもなくなった。
 むちゃくちゃだ。」

「生保内」を取り上げた章の一節です。
本書の中で私の住む地域に
最も近い土地です。
私は「クニマスの絶滅」については
知っていましたが、
そうした愚かな国策の結果であることは
これまで知りませんでした
(私の不勉強もあるのでしょうが、
新聞やTVが
クニマスの絶滅を取り上げるとき、
このような話題にはほとんど
触れられていないのは
どうしたことか?)。

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本書の味わいどころ③
「地域文化を知る本」の読書案内

そしてところどころに
問題提起の発端となった資料や、
参考文献としての書籍の情報が
明記されていて、
それが一つの読書案内として
機能しています。
「ふたつの川」(塩野米松)、
「沖縄・チビリガマの集団自決」
(下嶋哲朗)、
「世界でいちばんかなしい花」
(瀧晴巳)等、
読んでみたいと思う本が
いくつもありました。

地名には、
そこで生きる人間や風土の歴史、
昔からの生活習慣、
八百万の神々への畏敬、
自然への畏怖、そうしたものが
盛り込まれているものであることが、
本書を読むとよく解ります。
平成の大合併により、
日本の各地でそうした「地名」が失われ、
味気のない名前が増えたことは
嘆かわしいことだとつくづく感じます。
本書を参考に、自分の身のまわりの
「土地の名前」を振り返り、
そこに潜んでいる
意味や価値を考えるのも、
これからの時代を生きる上で
必要なことかも知れません。

〔梨木香歩のエッセイについて〕
梨木香歩の小説は現代作家の中で
最も読み応えがあると感じています。
そしてエッセイも素敵です。

講演をもとにして書かれた
「ほんとうのリーダーのみつけかた」は、
現代を生きる上で大切なことが
いくつも書かれています。

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「春になったら苺を摘みに」は
初期のエッセイ集ですが、
連作短編小説を読んでいるような
味わいがあります。

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「秘密の花園ノート」は
バーネットの「秘密の花園」についての
「読み」を深めるための
指南書となっています。

また、当サイトでは
まだ取り上げていませんが、
以下のエッセイもお薦めです。

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(2022.7.25)

strikersによるPixabayからの画像

【関連記事:梨木香歩作品】

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