「ロイド老嬢」(モンゴメリ)

人生は決して悪いものではないと、心から思えます。

「ロイド老嬢」
(モンゴメリー/掛川恭子訳)
(「百年文庫018 森」)ポプラ社

「ロイド老淑女」
(モンゴメリ/村岡花子訳)
(「アンの友達」)新潮文庫

老嬢ロイドは、
村にやってきた音楽教師グレーに
心を奪われる。グレーは、
老嬢がかつて愛した男性の
娘だったからだ。
彼女に愛情を注ぎ込もうとする
老嬢だったが、
老嬢は「金持ちでけち」という
噂とは逆に、
貧しさを極めていた…。

読み終えると
幸せな気持ちに浸ることができます。
やはりモンゴメリは素敵な作家です。
「赤毛のアン」も素敵でしたが、
そのスピンオフ的な本作品も傑作です。
自ら心を凍てつかせていた
ロイド老嬢が、幸せな生活を
掴むことができたのですから。
人生は決して悪いものではないと、
心から思えます。

【主要登場人物】
マーガレット・ロイド
…不幸な人生を歩み、
 老いを迎えた女性。プライドが高い。
レスリー・グレー
…ロイドの最愛の男性。
 若い頃、喧嘩別れした。
シルビア・グレー
…レスリーの娘。
 類い希な声楽の素養を持つ。
アンドリュー・キャメロン
…ロイドの従兄弟。財産を失った
 原因をつくった男であり、
 ロイドに憎まれている。
 キャメロン奨学金出資者。

考えてみると、この老嬢は
不幸な人生を歩んできました。
①最愛の男性と喧嘩別れし、
 プライドが邪魔して
 修復不可能に陥る。
 以後、独身生活を継続。
②従兄弟が老嬢の父親に
 持ち掛けた投資が失敗し、
 財産を失うが、老嬢はそれを
 周囲に悟られまいとして、
 以来虚勢を張り続ける。
③そのために周囲との関係を断ち切り、
 極貧に耐え抜いて生きてきた。
そうした経緯が重なって、
不幸な老後を
迎えざるを得なかったのです。
それがグレーの登場により
一変したのです。

送り主がわからないようにして、老嬢は
貧しい中で次々に援助し始めます。
こちらも時系列に並べると、
①秘密の場所で自ら摘んだ
 メイフラワーを送り届ける。
②自宅の庭の花々を送り届ける。
③野いちごを摘んで送り届ける。
ここまでは資金がなくとも
できることなのですが、
それ以降が大変です。
④グレーがパーティに出席できるよう、
 骨董価値の高い
 「ブドウの水差し」を売却し、
 ドレスを仕立てて送り届ける。
⑤最愛の人(つまりグレーの父親)との
 思い出の詰まった詩集を
 プレゼントする。
⑥音楽の才能ある若者を対象とした
 「キャメロン奨学金」を
 グレーに与えるよう取り計らう。

貧しい老嬢が、
それらを手に入れるために
本当に手放したのは何か?
「プライド」なのです。そして、
それが徐々に取り払われた結果、
彼女は「幸福」にたどり着くのです。

今日のオススメ!

本作品は、
アンソロジー「百年文庫018 森」に
収録されていますが、
元々は「赤毛のアン」シリーズの
短編集である第4作「アンの友達」に
収められているものです。
「赤毛のアン」と同じ舞台なのですが、
アンは登場しません。
これ一篇だけでも十分に成立している
素敵な作品です。
ぜひご賞味ください。
幸せな気持ちになること請け合いです。

〔幸せな気持ちになる外国文学〕
本作品の出発点である「赤毛のアン」も
もちろん幸せな気持ちになる
永遠の名作です。
「名前は知っているけれど
まだ読んでいない」という方は、
ぜひ読んでみてください。

また、本作品のプロットは、
ディケンズの「クリスマス・キャロル」を
彷彿とさせます(ロイド老嬢は決して
スクルージのような守銭奴ではなく、
ただ貧乏なだけなのですが)。
凍てついた心を自らの力で
融かすことができたのは、
ロイドもスクルージも幸せでした。

そしてある意味、本作品は
「あしながおじさん」(ウェブスター)の
女性版ともいえます
(この点についても、
ロイドが貧乏である点が
大きく異なっているのですが)。
貧乏である分、ロイドの行為の方が
尊いのではないかと思います。

重厚で暗鬱な小説も、
人生には確かに必要ですが、
幸せな気持ちになる文学作品は
もっと大切です。

〔「百年文庫018 森」収録作品〕

〔「アンの友達」収録作品一覧〕
奮いたったルドビック
ロイド老淑女
めいめい自分の言葉で
小さなジョスリン
ルシンダついに語る
ショウ老人の娘
オリビア叔母さんの求婚者
隔離された家
競売荘
縁むすび
カーモディの奇蹟
争いの果て

(2022.8.10)

Sasin TipchaiによるPixabayからの画像

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