「分ける」ことは「分かる」、つまり「理解する」こと
「生物を分けると世界が分かる」
(岡西政典)講談社ブルーバックス

分類学は、
数ある生物学の学問分野の中でも
とくに歴史が深く、
その始まりは紀元前に遡る。
現在の最先端の生物学も
この分類学の上に
成り立っており、
分類学自体も、
近年の科学技術の発達に合わせて
どんどんと進歩している。…。
中学校で理科を教えています。
昨年度から
新指導要領が完全実施となり、
教科書の内容が変わりました。
生物分野での特色は、
分類の「考え方」が初めて
登場したことだと感じています
(これまでは分類そのもの、つまり、
このように分類されるという
事実のみが記され、
分類の考え方や分類の仕方については
言及が浅かった)。
昨年、そして今年と教えてみて、
分類の意味が
しっかりと子どもたちに伝わったか、
いささか心許ない状況です。
それは私自身が「分類学」の精神を
きちんと理解していないことに
原因があると考えています。
そこで見つけたのが本書です。
理科教師のみならず、一般の方にも
十分にお薦めできる内容です。
【本書の章立て一覧】
プロローグ 分類学者の日常
第1章 「分ける」とはどういうことか
~分類学、はじめの一歩
第2章 分類学のはじまり
~人は分けたがる生き物である
第3章 分類学のキホンをおさえる
~二名法、記載、命名規約とは?
第4章 何を基準に種を「分ける」のか?
~分類学の大問題
第5章 最新分類学はこんなにすごい
~分子系統解析の登場と
分類学者の使命
第6章 生物を分けると見えてくること
~分類学で世界が変わる
エピローグ 分類学の未来
※詳しくはこちらをどうぞ(講談社HP)。
※こちらも参考になります(講談社HP)。
本書から得られる新しい気づき①
「分ける」ことは「分かる」こと
筆者の論旨は一言でいうと
「分ける」ことは「分かる」こと。
生物種をどのように分けるか、
そこにはその科学者やその時代の、
自然に対する知見が反映されるのです。
古代の科学者アリストテレス、
そして18世紀の学者リンネは、
生物の外見的な特徴を
詳細にひかくすることによって
生物を分類したのに対し、
日本では江戸時代、
貝原益軒がその薬効成分から
植物を分類しています。
もちろん近年ではDNA解析によって
「類縁関係」をもとにした
分類方法が確立しています。
分類学には、まさしく「自然観」、
つまりどのように自然を
理解しているかが反映されるのです。
「分ける」ことは「分かる」、
つまり「理解する」ことなのです。
本書から得られる新しい気づき②
「分類」は「進化」を解き明かす
上に記したように、
近年はDNA解析による手法で
分類学が発展しています。
その歴史や現在の状況について、
筆者は丁寧に説明しています。
いまや「分類」と「進化」は
表裏一体の関係にあり、
ともに進歩発展していることが、
本書から分かるのです。
本書から得られる新しい気づき③
「分類」の精神はすべてに通ず
分類学は生物の多様性を知ることの
基盤となっています。
分類学は地球の生態系を
正しく理解するために必要不可欠です。
分類学は地球環境の将来を
予測するのに役立ちます。
分類学は生物の進化の謎を
解き明かします。
分類学は人が自然を理解することの
本質にせまります。
筆者は、このように分類学が
あらゆる学問の根底にあり、
それ故に古代から発展し、
継承されていることを力説しています。
「無知の知、という言葉があるが、
分類学を学べば学ぶほど、
「私たちは何も知らない」と
いうことを理解できる。
これが、真に世界が「分かる」と
いうことなのかも知れない」。
何も自然や生物に限らず、
私たちは身のまわりのものを
「分け」て捉えようとしているはずです。
気づけば私自身も書斎の書棚では
蔵書(というほどの
立派なものではないが)を
「文学」と「ノンフィクション」に分け、
「文学」は「日本文学」と「海外の文学」
(さらには「各国別」に分け)、
「日本文学」は文学史順に並べて
「明治生まれの作者」
「大正・戦前生まれの作者」
「戦後生まれの作者」と、
自分なりの文学史観を持って
分類しています。
「分ける」ことは
世界を「分かろう」とすることなのです。
あなたの自然観や考え方に、
新たな気づきをもたらす一冊です。
ぜひご賞味ください。
〔ブルーバックスの生物学の本〕
(2022.10.4)

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