「かたづけ」は自己変革である
「中高生のための「かたづけ」の本」
(杉田明子・佐藤剛史)
岩波ジュニア新書
かたづけの問題は
表に出にくい問題です。
友だちにも
相談しにくいことです。
しかも家の中のことなので、
隠し通すことができます。
だからこそ深刻な問題なのです。
原因の一つは
「かたづけくらいできて
当然」という先入観が
私たち…。
「かたづけ」について書かれた、
岩波ジュニア新書からの一冊です。
そのような本を読むからには、
さぞかし部屋が散らかっているだろうと
思われるのは心外です。
私はかたづけが得意であり、好きです。
自分の書斎は完璧にかたづけ、
掃除もまめに行っています。
約5千枚ほどあるCDも、
数千冊ある本も、
分類してきちんと収納しています。
ではなぜ今頃「かたづけ」の本なのか?
それは私自身が「かたづけ」の効能を
言葉として表せないでいたからです。
「かたづけ」は
豊かな生活につながることが
実感としてわかっています。
でも、なぜそうなのか、
言葉として人に伝えることが
できないもどかしさを抱えていました。
本書を読んで、私は長い間、
胸につっかえたモヤモヤが
吹き飛んだような気持ちでいます。
本書は、「かたづけ」についての
ハウツー本ではありません。
「かたづけ」の価値と理論を体系化し、
「かたづけ」と
「豊かな生活」とのつながりを、
中高生にも十分に理解できるように、
その要諦を
明確に提示したものなのです。
【本書の章立て一覧】
はじめに
序章 「かたづけ力」を練習する前に
第1章 「かたづけ力」をつける
第2章 かたづけの方法Q&A
―よくある事例から学ぶ
第3章 「かたづけ」ってなんだろう
終章 社会に出ても役立つ
かたづけのチカラ
付録 親子でかたづけ上手になろう!
あとがき
※詳しくはこちらから(岩波書店HP)
本書で示される「かたづけ」の価値①
「かたづけ」は問題意識から始まる
筆者はまず、
「かたづけ」ができないことの問題点を
理路整然と説明しています。
「かたづけ」ができないことにより、
「時間を失う」
「スペースを失う」
「人間関係を失う」
「創造性を失う」
「大切な価値観を失う」と、
序章で、具体的事例を交えて
丁寧に解説しています。
「かたづけ」は、
こうした問題意識があって初めて
行動が開始されることを、
改めて認識させられます。
本書で示される「かたづけ」の価値②
「かたづけ」は「スキル」である
筆者は続いて、
「かたづけ」が練習の必要な
「スキル」であることを、
第1章で論理的に解説し、
第2章で実践例を紹介しています。
「断捨離」がブームとなっていますが、
「かたづけ」は決して
「捨てること」と同一ではなく、
その過程において重要なのは
「分けること」、
そして分けたあとの収納や処分を、
「自分で決めること」が大切と説きます。
本書で示される「かたづけ」の価値③
「かたづけ」は自己変革である
そして第3章、終章、
付録・あとがきにおいて、筆者は
「かたづけ」の本質に迫ります。
「かたづけ」が自らの生活を
より明るいものに
変化させるということについて、
実例を交えて詳細に述べています。
ここには単に「かたづけ」に止まらず、
生き方に関わる大切な要素が
いくつも記されています。
印象的な一節を取りだしてみます。
「かたづけは、
一つ一つのモノと向き合いながら、
そのモノの出口を考え、
自分の喜びになるのかを問い、
人の役に立つかを考え、
必要なモノを選んでいく
練習の場です」
「かたづけには、
人を変える、家庭を変える、
社会を変える、可能性に満ちた
パワーが隠されています」
中学校で教えていて気になるのは、
生徒の「かたづけ力」が
年々低下しているように
思えることです。
私の理科授業では、
私も黒板を使わず、
生徒もノートを使わず、
学習シートを使って学習活動を行い、
それをクリアブックに収納する、
という方法をとっています。
しかし、この学習シートの整理が
できない生徒が少なからず存在します。
授業が終わったあと、クリアブックに
差し込むだけなのですが、
それができないのです。
その結果、そうした生徒は、
授業が進むにつれて
整理整頓が追いつかなくなり、
しまいには学習シートを紛失し、
欠損を生じるといったことになります。
そしてその生徒たちは間違いなく
学力面に問題を抱えているのです。
「かたづけ」は子どもたちにとって、
学力にも直結する
非情に大きな問題だと感じます。
本書を、ぜひ全国の学校図書館に
常備してもらいたいと願う次第です。
(2022.11.15)
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