「星を覗く人」(ハイゼ)

誠実であり、寛大であり、孤高である

「星を覗く人」(ハイゼ/関泰祐訳)
(「片意地娘 他三篇」)岩波文庫

 

訪ねてきたヅァネットが、
父によって
追い返されたことを知り、
ベピーナは悲嘆に暮れる。
十六になるまで
深窓に育った彼女にとって、
彼は初めて思いを寄せた
男性だったのだ。
彼女は父親を恨むが、
母・ジオコンダはそれを諫める…。

美しい妻と美しい一人娘を、
虫がつかないように大切に育てる
厳格な父親。
よくある話です。
それに対して娘が反抗心を燃やす。
それもよくある話です。
どのように物語が展開するのかと思って
読み進めると…、
最後は涙が止まりませんでした。

【主要登場人物】
ジュゼペ
…父親。誠実で有能な弁護士。
 天体観測が趣味。
 妻と娘に対して厳格であるが、
 口調は穏やかであり、
 愛情に満ちている。
 愛称:ドクトル・ベペ。
ジオコンダ
…母親。街で一番の美しい娘だった。
 なぜか口数の少ないジュゼペと結婚。
ベピーナ
…一人娘。十六まで深窓に育つ。
 情熱的な性格。ヅァネットとの
 交際を禁じられ、父親を憎む。
ヅァネット
…ベピーナにアプローチする若者。

さて、この作品の読みどころは、
母・ジオコンダが
娘に打ち明ける話なのですが、
それをここに記してしまうと、
未読の方にとっては読む楽しみが大きく
損なわれてしまうことになります。
内容に触れずに
味わうべき点を挙げるとすれば、
表題ともなっている
「星を覗く人」ジュゼペの人柄でしょう。
物語の冒頭では、
「物静かな真面目さ」
「憂鬱にも近い瞑想癖」
「寡黙な空氣」など、
あまり明るくない表現が並ぶのですが、
彼の真実のそれは
誠実であり、寛大であり、
孤高であるのです。

彼は決して古風な考えから
娘の交際を禁じたわけではありません。
彼は常に娘の幸せを
第一に考えているのです。
そしてそれは
妻ジオコンダの性格を受け継いでいる
娘の気質を十分に理解し、
また娘に近づいた青年の素性を
正しく把握した結果であることが、
ジオコンダの口から娘に伝えられます。
彼は、誠実に生きているのです。
母から娘へ、
彼の若い頃の言葉が伝えられます。
「夜は時々良い分別を與えてくれる。
 星のことに通じると、
 地上のこともそれだけ
 よく分かるというのは本當だ」

かつて彼は、
ジオコンダのすべてを受け入れ、
ジオコンダを救っていたことが
語られます。
彼は自分の仕事や趣味に
没頭している人間ではなく、
常人の及びもつかないほどの
寛大な心の持ち主だったのです。
「僕が豫想していた通り
 君は僕のものでないにしても、
 僕はやっぱり君のものだ。
 僕が星から學んだことはそれだ」

それ故、彼は結婚してからの十七年間、
孤高の魂を持ち続けて
生活してきたのです。
その理由と経緯は、
ぜひ読んで確かめてください。

娘の心が氷解するだけで
物語は終わりません。最後には
素敵な結末が用意されています。

作者・パウル・ハイゼは、ドイツ人初の
ノーベル文学賞受賞作家です。
その素晴らしい作品が、
現在埋もれたままになっているのは
何とももったいない話です。
「ぜひ読んで」と記したのですが、
残念なことに本書は長らく絶版中。
私も岩波文庫のカバーなし裸本を
中古で入手しました。
復刊がなされることを強く希望する
作品の一つです。

〔関連記事:ハイゼの作品〕

〔関連記事:ドイツ文学〕

(2022.11.23)

Norbert PietschによるPixabayからの画像

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