「双生児は囁く」(横溝正史)

双子タップダンサー探偵・夏彦&冬彦

「双生児は囁く」(横溝正史)
(「双生児は囁く」)角川文庫

「双生児は囁く」表紙

双子のタップダンサー・
星野夏彦・冬彦の目の前で、
世界に二つとない真珠の首飾り
「人魚の涙」が盗まれる。
盗んだのは腕に
ハートのクイーンの刺青を持つ
女だった。
女は首飾りを盗んだだけでなく、
その番人の男を殺害していた…。

戦後まもなくの昭和23年(1948年)に
発表された、横溝正史の短篇です。
前年22年に書かれた
「双生児は踊る」の続篇であり、
双子のタップダンサー探偵・
夏彦・冬彦が活躍します。

【主要登場人物】
星野夏彦
…双子のタップダンサーの一人。
 色が白い。
星野冬彦
…双子のタップダンサーの一人。
 色が黒い。
清水亀三郎
…腕の立つ彫り物師。
 戦前、見知らぬ女の依頼で、
 眠っている女の腕に彫り物をした。
加納大吉
…真珠王と呼ばれる富豪。
 「人魚の涙」を所有。
加納龍吉
…大吉の一人息子。放蕩息子。
三輪芳子
…龍吉の婚約者。大吉の元タイピスト。
 腕にハートのクイーンの刺青を持つ。
諏訪三郎
…大吉の腹心の部下。
 「人魚の涙」の番人。殺害される。
白井順平
…新興財閥。「真珠の涙」を欲しがる。
矢代多門…元陸軍少将。故人。
矢代珠子…多門の娘。不良少女だった。
佐伯検事・千々岩警部
…殺人事件の捜査にあたる。

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今日のオススメ!

本作品の味わいどころ①
知らぬ間に刺青された女

冒頭はおどろおどろしさで一杯です。
彫り物師・亀三郎のもとに現れた
ヴェールの女は、彼を目隠しの上、
秘密の屋敷に案内、
そこには薬で眠らされた別の女が。
ヴェールの女は、
自らの腕にある刺青と同じものを
その女の腕に彫って欲しいと依頼、
亀三郎は金ほしさに
その依頼を受けるのです。
いったい何のために
薬で眠らされた女に刺青を?
女は彫られることを承知しているのか?
事件の匂いがプンプンします。

本作品の味わいどころ②
檻の中の番人の密室殺人

「人魚の涙」は檻の中で展示され、
檻の中には番人兼解説員・諏訪がいる。
絶対盗み出せないはずの仕掛けを、
芳子と瓜二つの女が巧妙に諏訪を騙し、
「人魚の涙」を奪い取る。
そして諏訪が殺害される。
同じ顔、同じ刺青の女、
そして密室殺人。
女の正体は?
犯人は誰なのか?
事件にはいくつもの謎が潜んでいます。

本作品の味わいどころ③
双子タップダンサー探偵

それを解き明かすのが、
双子タップダンサー探偵・
夏彦・冬彦です。
冒頭のおどろおどろしさとは
打って変わって、
漫才師探偵とでもいいたいくらいの、
明るい探偵です。
不謹慎なくらい、
事件を愉しんでいるのです。
謎解きも関係者を一堂に集め、
もったいぶった語り口で
面白おかしく解き明かす。
金田一耕助とも由利麟太郎とも違う、
明智小五郎とも異なる、
もちろんホームズやデュパンや
ポアロなどとも趣をまったく異にする、
これまでなかった探偵像が
ここにあります。

こんな素敵な作品なのですが、
横溝はこの双子探偵をシリーズ化せず、
どちらも改作してしまいました。
本作品の味わいどころ①は、
そのまま金田一ものの
「ハートのクイン」(1958年)に流用され、
さらに「スペードの女王」(1960年)に
改稿されています。
そして味わいどころ②は
ジュヴナイルの「怪盗X・Y・Z」
第4話「おりの中の男」に
ほぼそのまま活用されています。

確かに、①の素材は魅力的なのですが、
それを実行するに至るヴェールの女の
「動機」が弱すぎ、設定として
今ひとつという感が拭えません。
また、②の設定は
「こけおどし」的な色合いが濃すぎます。
そして③は、戦後の横溝が目指した
本格的探偵小説とは路線がずれる上、
横溝の持ち味のおどろおどろしさとは
どうしても相容れないでしょう。
そうした理由から、
横溝は本作品を①②に分離し、
それぞれを別作品に
仕立て直しをしたのだと推察できます。
「双生児は踊る」も、
金田一ものの「暗闇の中の猫」へと
改稿されています。
双生児探偵二作は、
あえなく埋没する経緯に至るのです。

でも、それがこうして読めるように
なったのですから幸せです。
改稿後の作品と比べながら
読み味わうのが
横溝ミステリの愉しみ方です。

〔本書収録作品一覧〕
汁粉屋の娘
三年の命
怪犯人
空家の怪死体


双生児は囁く

〔関連記事:横溝ミステリ〕

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