「百年文庫070 野」

「野」に出る人は、孤高な魂の持ち主

「百年文庫070 野」ポプラ社

「百年文庫070 野」ポプラ社

「ベージンの野 トゥルゲーネフ」
夏の夜の道に迷った「私」は、
ベージンの野と呼ばれる
草原へ出てしまう。
そこでは土地の子どもたち五人が
朝まで馬番をしていた。
「私」は彼らと
一晩を過ごすことになる。
やがて、焚き火を囲んで
子どもたちの
四方山話が始まる…。

百年文庫第70巻の主題は「野」。
わかりやすいテーマではあります。
作品の舞台はすべて「野」だからです。
ロシアのトゥルゲーネフの作品は、
表題がすでにベージンの「野」。
主人公「私」が迷い出てしまった
ロシアの豊かな草原が目に浮かびます。
フランスのドーデの作品の舞台は、
人里遠く離れた山中の「野」。
ドイツのシラーの作品は、
主人公・ヴォルフの逃亡先が
街から外れた「野」なのです。

「星 ドーデ」
羊番である「私」は、
何週間もの間、
人の姿を見ずに暮らしていた。
ある日、半月分の食料を小屋まで
運んできてくれたのは、
「私」が憧れていた
「お嬢さん」だった。
「お嬢さん」は
家路についたはずだったが、
びしょ濡れで戻ってきた…。

そうなると、場所としての
「野」の特性が見えてきます。
「人の集まる場所」から
離れているということです。
そして主人公たちはみな孤独です。
「ベージンの野」の「私」は
単独で出かけた狩りの帰途、道に迷い、
馬番の子どもたちと出会います。
「私」がどのような生活を送っていたかは
明らかにされていませんが、
子どもたちとの描写には、
他の人間との邂逅に対する
「私」の渇望のようなものが
感じられなくもありません。
「星」の「私」はまったく孤独です。
憧れる「お嬢さん」との交流は
温かさを感じさせる一方で、
決してそれ以上の関係には
なれないという「孤独さ」も
同時に感じさせます。
そしてシラー作品のヴォルフは、
まったく孤独な魂を
抱えて生きているのです。

「誇りを汚された犯罪者 シラー」
貧しい青年・ヴォルフは、
恋人・ヨハンネへの贈り物の
資金を得るため、
密猟に手を出す。しかし
恋敵のローベルトに密告され、
彼は罰金刑を受け、
財産のほとんどを失う。
彼は再び密猟を企てるが、
やはり密告され失敗に終わる…。

主人公の「孤独」は、作者の「孤高」と
表裏一体の関係にあります。
トゥルゲーネフは、
「ベージンの野」を含む
作品集「猟人日記」で、
貧しい農奴の生活を描き、
農奴制を批判、その結果、
投獄されることになります。
民衆に寄り添うその姿勢は、
まさに「孤高」です。
ドーデもまた、
その作風は鋭い観察眼に基づく
写実主義であるとともに、
弱者に対する深い愛情に満ち、
「孤高」を保った作家といえるでしょう。
シラーも、ベートーヴェンの
第九交響曲のテキスト「歓喜の歌」に
表出しているように、
自由を求める「孤高」の精神の詩人です。

「野」に出る人は、
孤独であり、
孤高な魂の持ち主なのです。
素敵な三篇が収録されている
「百年文庫 野」。
ぜひご一読ください。

〔関連記事:トゥルゲーネフ〕

〔関連記事:ドーデ〕

〔関連記事:「百年文庫」〕

〔「百年文庫」はいかがですか〕

(2022.11.30)

bess.hamiti@gmail.comによるPixabayからの画像

【トゥルゲーネフの本はいかが】

【ドーデの本はいかが】

【シラーの本はいかが】

【今日のさらにお薦め3作品】

【こんな本はいかがですか】

【今日のお知らせ2022.11.30】
以下の記事をリニューアルしました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA