
脇役・金田一耕助、主役・謎の青年。
「迷路の花嫁」(横溝正史)角川文庫
女性霊媒師殺人事件に遭遇した
若手作家・松原浩三。
彼は発見者でありながら、
現場の遺留品を警察に隠すなど、
不審な行動を取る。
さらに彼は心霊術の大家・
建部の被害者たちに
接触を繰り返し、
人々を救っていく。
彼のねらいは一体…。
昨年秋から次々と復刊されている
角川文庫の横溝正史作品の一冊です。
本書も昨年(2021年)10月に
復刊されているのですが、
先日ようやく読み終えました。
金田一耕助シリーズの一つなのですが、
他の作品とは色合いが異なります。
【事件簿File-029「迷路の花嫁」】
〔依頼人〕
植村欣之助
…大学助教授。滝川恭子の婚約者。
〔捜査関係者〕
本多巡査・北川巡査
…野方署巡査。死体発見時の巡査。
山口警部補
…野方署捜査主任。
新井刑事・沢田刑事・津村三五郎刑事
…野方署刑事。
門田医師…野方署監察医。
等々力警部…警視庁捜査一課警部。
〔事件関係者〕
宇賀神薬子
…殺害された霊媒師。
藤本すみ江
…宇賀神家女中。死体となって発見。
河村達雄
…宇賀神家書生。
建部多門
…いかがわしい心霊術大家。
多数の女性を漁り、苦しめる。
瑞枝…多門の妾。
本田…多門家書生。
松原浩三
…若手小説家。謎の行動を取る。
宇賀神薬子の死体を発見。
松原達三
…浩三の兄。銀行員。
横山夏子
…事件後、浩三と結婚。
殺害された霊媒師の弟子で
宇賀神奈津女と名乗らされていた。
都築民子
…浩三の亡父の愛人(伯母)。
浩三の依頼で夏子を匿う。
都築昌子
…民子の亡娘。浩三の元婚約者。
都築春彦
…民子の息子。浩三とは腹違いの兄弟。
本堂千代吉
…浩三と死体を発見。脚が不自由。
本堂筆子
…千代吉の妻。故人。
本堂蝶太
…千代吉の息子。
滝川恭子
…植村欣之助の婚約者。
殺人現場で手袋が発見される。
滝川衛
…恭子の弟。高校生。
滝川直衛
…恭子の父。滝川呉服店主人。
殺害された霊媒師のパトロン。
滝川やす子
…直衛の妹。恭子の母親代わり。
滝川貞子
…直衛の妻。故人。多門の信者。
室井五平
…滝川呉服店支配人。
おしげ
…旅館「田川」女将。
浩三が懇意にしている。
岩崎
…建設業「岩崎組」の親方。
おしげと結婚。
山村多恵子
…バー「レッド・フラワー」マダム。
山村喜美
…多恵子の娘。
〔事件発生〕
昭和24年5月(東京)
〔事件の概略〕
①5月26日
宇賀神薬子の死体を
浩三と千代吉が発見。
恭子が現場から走り去り、
血のついた手袋を落とす。
②6月上旬(事件から約10日後)
藤本すみ江の死体発見。
③10月ごろ
松原浩三、襲撃を受け重体。
事件の全容解明。
本作品の味わいどころ①
脇役・名探偵・金田一耕助
何と金田一耕助が脇役に徹しています。
全370頁の本作品、
金田一はようやく105頁目で登場。
ここでは「よれよれのセルに
よれよれの袴をはき、
スズメの巣のような頭をした
小柄で貧相な男」としか
表記されていません。
本文中に「金田一耕助」の名前が
登場するのはさらに進んで130頁目。
いよいよ金田一が
捜査に乗り出すのかと思えば、
再び姿を消し、以後は終盤まで
登場はお預けとなります。
本作品において、
金田一耕助は完璧に脇役に徹し、
物語は松原浩三を中心に
描かれていくのです。
この、脇役に徹する
金田一耕助の描かれ方こそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。
本作品と同じように、
金田一が脇役となっている作品に
「三つ首塔」があります。
そちらは宮本音禰なる女性が
主人公となって、
いくつもの殺人事件に
巻き込まれていく筋書きです。
実は本作品と「三つ首塔」、どちらも
昭和三十年に書かれたものです。
横溝はこの時期、
多様な筋書きの可能性を
模索していたものと考えられます。
本作品の味わいどころ②
主役・謎の青年・松原浩三
その主役を張る松原浩三ですが、
冒頭ではたまたま殺人事件発見に
立ち会っただけです。
ところが現場で発見した
「血痕のついた手袋」を隠匿、
何やら怪しい雰囲気を醸し出します。
と思えば、殺害された霊媒師の弟子・
奈津女(夏子)にアプローチするなど、
遊び人の一面を見せます。
かと思えば、一緒に死体を発見した
本堂千代吉に接触、
滝川恭子、おしげ、岩崎、
そして金田一とつながっていくのです。
「三つ首塔」の音禰は、
自らの意志とは関わりなく、
莫大な遺産の相続のために
事件に巻き込まれていったのですが、
本作品の松原浩三は、
明確な意志を持って
事件に自ら首を突っ込んでいるのです。
筋書きはまさに松原浩三を軸として
展開しているのです。
この、名探偵・金田一を差し置いて
主役に躍り出ている
松原浩三の冒険こそ、本作品の
第二の味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。
本作品の味わいどころ③
ミステリではなく英雄譚
松原浩三が主役といっても、
霊媒師殺人事件の捜査をする
探偵役を務めるわけではありません。
最初は意味不明の隠密行動でしたが、
次第にそれは悪役・建部多聞の
毒牙にかかった女性の
救出劇であることが
明らかになってきます。
金田一耕助が脇役に引き下がった上に
探偵役が不在である以上、
冒頭に描かれた霊媒師殺人事件の捜査は
暗礁に乗り上げます。
同じ日に起きた二つの殺人事件以降、
終盤の浩三襲撃まで、
新たな事件は一切起きていないのです。
殺人事件解決はそっちのけで、
松原浩三の活躍だけが
描かれていくのです。
この、ミステリと思わせておいて
実は英雄譚であるという
筋書きの妙こそ、本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

中盤に差し掛かるまでは、
「横溝はいったい
何を書きたいのか?」という疑問に
襲われること間違いなしなのですが、
それを通り過ぎると
すべてがストンと胸に落ちてきます。
金田一シリーズの異色作です。
「してやられた!」という
爽快な読後感を味わうことができます。
横溝ファンの方もそうでない方も、
ぜひご賞味ください。
(2022.12.2)
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(2025.5.29)
〔関連記事:金田一耕助シリーズ〕



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