ハッブルへの惜別の気持ちも込め…
「カラー版 ハッブル望遠鏡の宇宙遺産」
(野本陽代)岩波新書
「遺産」という言葉を
使うことにしたのには
わけがある。
二〇〇四年一月、第五回の
サービス・ミッションが
キャンセルされた。
サービス・ミッションの中止は、
ハッブルにとって
死を意味している。
ハッブルへの
惜別の気持ちも込め…。
岩波新書のハッブル望遠鏡シリーズ
第3弾です。
といっても、本書刊行は2004年。
すでに20年が経過しようとしています。
それでも、過去2作同様、
決して色あせない
宇宙研究の成果が記録されていて、
今読んでも十分に
愉しめる内容となっているのです。
【本書の章立て一覧】
はじめに
1 ヘリテッジの天体たち
2 宇宙の果てにせまる
3 星の世界を訪ねる
4 ハッブル最大の危機
5 地球のなかまたち
「ハッブル・ヘリテッジ」とは、
「これまでにハッブルが撮影した
数多くの画像のなかから、
人類の共有財産(ヘリテッジ)として
残すにふさわしいすばらしいものを
厳選」したものなのです。
本書には「ハッブル・ヘリテッジ」からの
写真が豊富に掲載されていて、
頁をめくって眺めるだけで
宇宙の神秘を堪能できます。
本書に収録されている
いくつかの写真をもとに、
読みどころを説明したいと思います
(写真はすべてパブリック・ドメイン)。
まず第1章では、
ヘリテッジに収められている
さまざまな銀河を紹介しています。
恒星の集まりである銀河は、
実に個性的で
美しい姿をしていることに、
改めて驚かされます。
下の写真は本書表紙にもなっている
「猫の目星雲」。
3000光年先にある惑星状星雲です。
さらにこちらは
へびつかい座にある惑星状星雲
NGC6369です。
いくつもの写真を取り上げ、
その銀河にどのような物語が
進行しているのかを解説しています。
第2章では、
より遠くにある銀河に焦点を当て、
ビッグバン以降の宇宙創成の謎に
迫ろうとしています。
写真は9800万光年という
気の遠くなるような先の宇宙にある
渦巻銀河NGC3370です。
周囲にも、
いくつもの銀河が映り込んでいます。
宇宙の想像もできないくらいの広大さが
よく表れています。
第3章では、銀河から、
それを構成する星々に視点を移し、
主に星の誕生と死の瞬間を
捕らえた画像を掲載しています。
写真は大マゼラン雲内の
毒蜘蛛星雲の一部NGC2080です。
ここは今まさに星が
誕生しようとしているその瞬間
(といってもおそらくは数万年)です。
第4章は、
ハッブルのサービス・ミッション中止の
経緯について説明されています。
ここでは文章とはまったく関係なく、
美しい銀河や星雲、恒星の写真が
掲載されています。
最も目を引くのはこの写真です。
いっかくじゅう座V838星、
2万光年先にある天体です。
最後の第5章には、
ハッブルの捕らえた太陽系の星々の
鮮明な写真が紹介されています。
太陽系の天体については、
ボイジャーなども
撮影に成功していますので、
目新しさはないかも知れません。
しかし、この「木星のオーロラ」などは、
ハッブルならではのものなのです。
さて、本書を通して
筆者・野本陽代氏が憂いていた
ハッブルのミッション終了ですが、
本書出版の2年後、2006年には
5回目のサービス・ミッションが
行われることが発表され、
その後もサービス・ミッションが継続、
現在もハッブルは
運用されているようです。
そして本書で
ハッブルの後継機として紹介されている
「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」は、
2011年の打ち上げ予定が大幅に遅れ、
2021年に打ち上げられています。
ハッブル、そして
ジェイムズ・ウェッブは、
これからも宇宙の神秘を撮り続け、
私たちを愉しませてくれそうです。
〔関連記事:野本陽代〕
〔野本陽代の本〕
残念ながら多くは絶版となっています。
この手の本は
流通期間が短いことが多く、
古書を探す必要があります。
(2022.12.6)
【岩波新書の自然科学分野】
【今日のさらにお薦め3作品】
【読書のおともに:ココア】
【今日のお知らせ2022.12.6】
以下の記事をリニューアルしました。