のどかな雰囲気を湛えたミステリも貴重です
「赤い館の秘密」
(A.A.ミルン/山田順子訳)
創元推理文庫

友人を訪ねて赤い館を訪れた
ギリンガムは、
鍵のかかった扉を叩く
ケイリーと遭遇する。
銃声が聞こえたというのだ。
窓から室内へ入った二人は、
そこに死体を発見する。
それは赤い館の主・マークの
ならず者の兄・ロバートだった…。
「くまのプーさん」の作者・A.A.ミルンが、
長篇推理小説「赤い館の秘密」を
著していたことは有名です。
童話作家がなぜ殺人事件を?
そう思って後回しにしていたのですが、
ようやく読むことができました。
反省しています。
こんな名作を今まで
読もうとしていなかったなんて。
素敵な作品です。
【主要登場人物】
マーク・アブレット
…赤い館の主。兄を毛嫌いしている。
ロバート・アブレット
…マークの兄。ならず者。
オーストラリアから帰国し、
赤い館にやってくる。
マシュー・ケイリー
…マークの従弟。
マークに学費を出資してもらった。
ランボルト少佐
…赤い館客人。
ミセス・キャラダイン
…赤い館客人。
ベティ・キャラダイン
…ミセス・キャラダインの娘。
ルース・ノリス
…赤い館客人。女優。
ミセス・スティーヴンズ
…赤い館料理人兼家政婦。
オードリー・スティーヴンズ
…ミセス・スティーヴンズの姪。
赤い館客室係。
エルシー・ウッド
…赤い館ハウスメイド
アンジェラ・ノーベリー
…マークが求婚していた女性。
ミセス・ノーベリー
…アンジェラの母親。
バーチ警部
…ミドルストン署警部。事件を担当。
ウィリアム・ベヴァリー
…赤い館客人。
アントニー・ギリンガム
…ベヴァリーの友人。
素人探偵を試みる。
本作品の味わいどころ①
登場人物は限定的、でも飽きさせない
ギリンガムとケイリーが発見したのは
ロバートの死体。
主要登場人物のうち、
ベヴァリー以外の客人は帰宅し、
使用人は無関係、
ノーベリー母娘は終盤で初めて登場、
したがってどこからどう見ても犯人は
失踪したマーク、もしくは
ケイリー以外には考えられないという、
限定された人物設定。
しかも最初に発見された死体以外、
殺人事件は起きません。
ロバート殺しの謎解きだけで320頁。
普通であれば
読み手は飽きてしまうでしょう。
ところがそうなりません。
面白すぎて一気に読んでしまいます。
おそらくどこからか失踪したはずの
マークの死体が発見され、
犯人は…、と先が見えてくるのですが、
決してその先に安易な結末は
用意されていません。
秘密の抜け道の発見と探索、
真夜中の湖中捜索、
絶妙な駆け引き等々、
読者を引きつけて放さない展開の工夫が
随所に見られるのです。
本作品の味わいどころ②
さすがは童話作家、基本的に悪人なし
殺人事件には悪人の存在が不可欠です。
しかし本作品を
最後まで読み終えたとき、
登場人物の誰しもが
優しいことに気づかされます。
殺人者は決して保身のために
次の殺人を犯そうとはしません。
潔く罪を認めるのです。
そして探偵ギリンガムは犯人に対して
最大限の敬意を払い、
多くの探偵のように
衆人環視の中で名指しして
警察に突き出したりもしません。
およそ殺人事件を扱った
ミステリとは思えない、
どこかに「優しさ」の漂う
雰囲気なのです。
これこそ童話作家・A.A.ミルンにしか
書けないミステリなのでしょう。
本作品の味わいどころ③
ホームズとは違う、やさしい名探偵像
そして何といっても魅力は
素人探偵ギリンガムです。
ミルンの目指した探偵像は
あくまでも読み手と同じ目線、
同じ立ち位置にある、
「やさしい」名探偵です。
「探偵は、
一般市民である読者がもちえない、
特殊な知識をもっていてはいけない。
冷静な帰納的推理と、
非情で厳然たる論理を駆使すれば、
読者もまた謎を解き、
犯人を特定できると
思わせてくれなければならない」。
あとがきでの作者の言葉です。
その言葉通り本作品は、読み手が
素人探偵ギリンガムと一緒になって
謎解きをしている感覚に
浸ることができる、
希有なミステリなのです。
ドイルのように
超人的探偵ホームズが事件を解決する
ミステリもわくわくします。
クリスティのように
読者を最後にあっと言わせるミステリも
ドキドキします。
江戸川乱歩のように
猟奇的好色的ミステリも
面白いと思います。
横溝正史のように
おどろおどろしい雰囲気に包まれた
ミステリにも心が躍ります。
しかし、このような、どこか
のどかな雰囲気を湛えたミステリも
貴重です。
特に世の中全体が殺伐としてきた
現代ではなお必要だと感じます。
1921年に発表された本作品も
すでに100年以上
経過してしまいました。
現代にこそ、
読まれるべきミステリです。
〔関連記事:くまのプーさん〕
(2023.1.6)

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