「吉備津の釜」(日影丈吉)

少しずつ恐怖が押し寄せ、最後に爆発する

「吉備津の釜」(日影丈吉)
(「百年文庫024 川」)ポプラ社

「百年文庫024 川」ポプラ社

「吉備津の釜」(日影丈吉)
(「日影丈吉傑作館」)河出文庫

「日影丈吉傑作館」河出文庫

金策尽きた州ノ木は、
資産家・山崎との面会へ向かう。
酒場で知り合った
川本という男からの
紹介状を携えて。
隅田川の水上バスに
乗り込んだ州ノ木は、
かつて知り合いから聞いた
「川の魔物・山の魔物」の
話を思い出し、
不安に襲われる…。

数年前に本作品を
百年文庫で初めて読みました。
日影丈吉なる作家を
まったく知りませんでした。
織田作之助室生犀星
作品に挟まれているのですから、
何らかの人情ものだろうという
無意識の思い込みを持っていました。
読んでいて違和感を感じました。
違和感の正体がわからず
読み進めました。
読み終えて驚きました。
人情ものだと思った作品は、
なんと少しずつ恐怖が押し寄せ、
最後に爆発するような、
ホラーでありミステリでもある、
衝撃度の非常に大きな
作品だったのです。

〔主要登場人物〕
州ノ木

…人の良い男。
 事業に失敗し、金策尽きる。
 川本から山崎への紹介状を受け取る。
川本
…州ノ木と酒場で知り合う。
 資産家の友人山崎を川本に紹介する。
山崎
…川本の友人の資産家。
祈祷師
…かつて州ノ本の近所に住んでいた男。
 「川の魔物・山の魔物」を
 州ノ本に話した。

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本作品の「押し寄せる恐怖」①
人情から開始、読み手の心を無防備に

短篇作品ですが、
内容は五つの章に分かれています。
「一」では、
州ノ木と川本との出会いが描かれ、
無事に川本から紹介状を
受け取ることができて安堵している
州ノ木の心情が伝わってきます。
ここまでは人情話です。
友人に騙されたような形で
窮地に立たされた州ノ木ですが、
赤の他人が
それを救ってくれるのですから。
そこからどんな感動的な筋書きが
続くのだろうと思ってしまいます。

作者・日影の罠に落ちていました。
ここで読み手の心は
完全に防御を解かれ、
無防備状態に陥るのです。
そこに続く「二」「三」で、
次の攻撃がじわじわと
繰り出されていくことになります。

本作品の「押し寄せる恐怖」②
突然挿入される「怪談」、膨らむ「不安」

なぜか「二」では
州ノ本の回想が始まります。
水上バスの乗客の一人が、
かつて付き合いのあった祈祷師に
似ていたという、そんな
些細なことから回想が始まるのです。
「何で?」という思いが拭えません。

その途中にも「河童」の話題の片鱗やら
インチキの見世物「吉備津の釜」の
話やらが織り交ぜられ、
「何で?」が、どことなく落ち着かない
気持ちへと変化していくのです。
そして「三」では、祈祷師の
「川の魔物・山の魔物」へと続くのです。

その「川の魔物・山の魔物」の話とは…、
ここはぜひ読んで確かめてください。
その話の肝は、
「気づかぬうちに自分の殺害を依頼する
手紙を運んでいた男」なのです。
それが実は自分の置かれている立場と
同じであることを、
州ノ本は気づくのです。

本作品の「押し寄せる恐怖」③
衝撃的な結末、一気に押し寄せる恐怖

彼は思い切って、
預かっている紹介状を開封します。
そこには何と…、
ここもぜひ読んで確かめてください。

その真相が語られるのが「五」です。
衝撃的な結末が描かれています。
ここに至って、主人公・州ノ本は
底知れぬ恐怖を感じるのですが、
読み手もまた、
州ノ本の感覚とシンクロし、
同じレベルで押し寄せてくる恐怖を
感じとることができる
しくみになっているのです。

読み終えてみれば、
人情のかけらもない
陰惨な物語(の一歩手前)なのです。
計算し尽くされたミステリです。
日本ミステリ史には、
まだまだこんな作家が潜んでいたのかと
思い知らされました。
その後に購入したのが
河出文庫の「日影丈吉傑作館」です。
同じように背筋が寒くなるような作品が
凝縮されていました。
そちらもいずれ
取り上げていきたいと思います。

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知らない作家を知るきっかけになる。
それがアンソロジーを読む
魅力でしょう。
日影丈吉をまだ知らないあなた、
あなたはまだその衝撃を味わえる
幸せを持っています。
ぜひご賞味ください。

〔「百年文庫024 川」〕
 織田作之助
吉備津の釜 日影丈吉
津の国人 室生犀星

〔「日影丈吉傑作館」〕
かむなぎうた
東天紅
彼岸まいり
ねじれた輪
食人鬼
吉備津の釜
消えた家
天王寺
夢ばか
人形つかい
ひこばえ
泥汽車
明治吸血鬼

(2023.3.29)

Анита МорганによるPixabayからの画像

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