「ビブリア古書堂の事件手帳Ⅲ」(三上延)

重なる本と本~夢野久作「ドグラ・マグラ」を巡って

「ビブリア古書堂の事件手帳Ⅲ」
(三上延)メディアワークス文庫

「亡くなった元夫の蔵書が
売られるのを防いで欲しい」。
樋口なる女性から
依頼を受けた栞子は困惑する。
売却しようとしていたのは、
栞子もかつて
世話になったことのある
同業者だったからだ。
偶然その話を聞いてしまった
扉子は…。

「ビブリア古書堂の事件手帳」
第2シリーズ第3巻・通算では第10巻を、
ようやく読み終えました。
これまで以上に
面白さが凝縮されています。
今回も頁をめくる手を止められず、
一気に読んでしまいました。

〔主要登場人物〕
篠川栞子
…ビブリア古書堂店主。
 古書に関してずば抜けた知識を持つ。
篠川大輔
…ビブリア古書堂店員。旧姓五浦。
 栞子の夫。
篠川扉子
…栞子・大輔の娘。高校2年生。
 本だけが友達。
篠川知恵子
…栞子の母。栞子・大輔に
 古書売買の知識を指導する。
滝野蓮杖
…栞子と幼馴染みの同業者。
 古書店組合支部長。
杉尾康明
…佳穂の元夫。古書店虚貝堂の
 三代目になるはずだったが、病没。
杉尾正臣
…虚貝堂二代目店主。古書市で
 息子の蔵書を売り払おうとする。
亀井
…虚貝堂番頭。
神藤由真
…ドドンパ書房店主。
樋口佳穂
…依頼主。亡くなった元夫の蔵書
 約千冊が売られるのを防ぐよう依頼。
樋口恭一郎
…佳穂の息子。高校1年生。
 通う高校の先輩・扉子の影響で
 本に興味を持ち始める。

本作品の味わいどころ①
扉子が実質的な主役

セカンド・ジェネレーションへの移行
今回の主役は扉子。
そして相手役は恭一郎。
高校生どうしの
若々しい二人が活躍します。
世代はついに
セカンド・ジェネレーションへと
移行しました。
前作「Ⅱ」では、
本編で7歳(くらい)だった扉子
(2012年設定)が、
プロローグ・エピローグでは
高校1年生(2021年)として
書かれてあった理由が
ここにきてわかりました。
作者は本書「Ⅲ」以降、
主役を次の世代へと
引き継がせようとしていたのです。

考えてみれば、
第1シリーズの初作が発表されたのは
2011年。
その作品の舞台はおそらく
2000年代初頭であったと思われます。
2017年で一応の完結を得たものの、
人気の急騰に映画化され、
シリーズが続行されました。
となると、作品中の設定と現実の時間が
どんどん乖離してしまう以上、
当然の措置なのです。

今回は扉子の相手役として
恭一郎が登場、初々しい二人が、
大輔・栞子の「後継者」的な
役割を担っているのです。
しかもその恭一郎は、
エピローグではなんと智恵子に
懐柔されているのですから驚きです。
次回作「Ⅳ」では、
この恭一郎に何らかの重要な役割が
与えられるのは間違いありません。
非常に楽しみです。

本作品の味わいどころ②
古書市で起きる事件

3つの事件がつながりをもって一つに
本シリーズは、
基本的には連作短編集です。
第1シリーズの「4」「7」、
第2シリーズの「Ⅱ」は
長篇として書かれているのですが、
他は一話完結の形です。
今回は3つの事件が起こり、
それぞれは各話で
解決が図られるのですが、
それらは最終的に一つにつながります。
舞台を古書市に設定し、
そこですべてを完結させながら、
事件の背景にある「謎」については、
やはり智恵子が絡んでくるという
周到な人物配置がなされています。

〔本書の構成〕
プロローグ・五日前
初日・映画パンフレット
 「怪獣島の決戦 ゴジラの息子」
間章一・五日前
二日目・樋口一葉「通俗書簡文」
間章二・半年前
最終日・夢野久作「ドグラ・マグラ」
エピローグ・一ヶ月後

古書市の三日間を軸とし、
その前後に時間軸を広げ、
物語に奥行きを持たせているのです。
見事な構成です。

本作品の味わいどころ③
重なる本と本

夢野久作「ドグラ・マグラ」を巡って
そして今回の目玉は
日本三大奇書の一つといわれる
夢野久作の「ドグラ・マグラ」が
「最終日」の事件の
対象となっていることです。
そしてこの本が、
本書全体を貫く鍵となっているのです。
「ドグラ・マグラ」に擬えるように、
恭一郎の父親・康明は
その生涯を終えます。
「ドグラ・マグラ」がその作品内において
奇書「ドグラ・マグラ」を登場させ、
それを愛読していた康明が
その作品と酷似した状況で
一生を終える。
奇書にまつわる
奇怪な筋書きが絶妙です。

さらには、本書自体も、
エピローグまで読み終えると、
同じような二重構造、
つまり本書自体が
智恵子によって綴られていることが
明らかになるのです。
本と本が重なり合い繋がり合い、
合わせ鏡によってできる
多重の像のようになっているのです。

そのため、
これまでの大輔による語りと異なり、
筋書きがやや距離感を持って記され、
読み手が物語に没入しにくいといった
感はあるものの、
それは些細な疵に過ぎません。

「Ⅳ」が待ち遠しい!
そう思わずにはいられません。
いったいいつ発売するのでしょう。
今度こそ発売日に購入し、
すぐ読んでみたいと思います。

(2023.5.22)

〔これまでの「ビブリア古書堂」〕
〔第2シリーズ〕

〔夢野久作「ドグラ・マグラ」〕

PennyによるPixabayからの画像

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