「百年文庫024 川」

ゆく河の流れは絶えずして

「百年文庫024 川」ポプラ社

「百年文庫024 川」ポプラ社

「蛍 織田作之助」
「耳の肉のうすい女は
不運になり易い」という
伯父の言葉を信じ、
自分の行く末をあらかじめ
諦めるようになった登勢。
彼女は船宿寺田屋に嫁ぐが、
夫は頼りなく、姑は気難しく、
小姑は意地が悪かった。
しかし登勢は力強く生きる…。

百年文庫第24巻のテーマは「川」。
三作品とも、「川」が重要な舞台の
一つとなっているのですが、
それだけではなさそうです。

一作目の織田作之助「蛍」は、
主人公・登勢の生き方が、
「川」の流れのように描かれていきます。
登勢の人生という一本の川が、
お良という小さな川と寄り添い、
その流れが大きくなったところで、
坂本龍馬という激流の川と交錯する。
読み終えた後は長編映画でも
見たかのような心の充足感を感じます。

「吉備津の釜 日影丈吉」
金策尽きた州ノ木は、
資産家・山崎との面会へ向かう。
酒場で知り合った
川本という男からの
紹介状を携えて。
隅田川の水上バスに
乗り込んだ州ノ木は、
かつて知り合いから聞いた
「川の魔物・山の魔物」の
話を思い出し、
不安に襲われる…。

次の日影丈吉「吉備津の釜」は、
怪しい川の流れに足を
すくわれそうになった男の物語です。
ジャンルとしてはミステリ、
もしくはホラーに分類される
作品なのですが、
考えさせられる部分の多い短篇であり、
純文学の要素を持ち得ています。

「津の国人 室生犀星」
夫は津の川を東へ上り、
念願の宮仕えのために
京都へ向かう。
妻・筒井はそれを西へ下り、
官人の家の奉公へと向かう。
再び一緒に暮らせる日を願い、
筒井は夫からの便りを
待ち続けるが、
二年を過ぎても一通の便りも
届かなかった…。

何度読み返しても心が洗われる、
室生犀星の名作短篇です。
犀星は古典に題材を求めた
いわゆる「王朝もの」を得意としていて、
本作品も伊勢物語を下敷きにして
創作されています。
ここでも主人公・筒井の生き方が、
川の清流のように描かれていきます。

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今日のオススメ!

このように三作品とも、
主人公の生き方が
川の流れのように描かれ、
短篇ながらも重厚な底光りを伴って
読み手に迫ってきます。
そしてもう一つ注目すべきは、
三作とも、「川」が
その運命の分岐点としての
役割を果たしていることでしょう。

「蛍」の登勢が嫁いだ先の寺田屋は
伏見の船宿。
「川」と切っても切り離されぬ
家の嫁になったのです。
しかしそこから苦労はするものの、
登勢は人生を
しっかりと切り拓いていくのです。

「吉備津の釜」でも、
「川」が主人公・州ノ木の
運命を分けています。
たまたま水上バスを選択したため、
同乗していた「黒帽子の男」から、
かつて聞いた「川の魔物・山の魔物」の
逸話を思い出し、その筋書きが、
自らが置かれている立場と
酷似していることに気づくのです。
その逸話の肝は、「気づかぬうちに
自分の殺害を依頼する手紙を
運んでいた男」というものであり、
州ノ木は、そして読み手も、
背筋を凍らせる
しくみとなっているのです。

「津の国人」は、主人公・筒井と夫が、
行き先を分けた「川」こそが
まさに運命の分岐点となりました。
都の官吏の職を得た夫は
東に登りましたが、
便りをよこす暇もないほどの
苦労にまみれ、
西に下った筒井は、
その誠実な人柄から皆に必要とされ、
幸せを得るのです。

ゆく河の流れは絶えずして、
しかももとの水にあらず。
よどみに浮ぶうたかたは、
かつ消え、かつ結びて、
久しくとゞまりたるためしなし。
世中にある、
人と栖と、又かくのごとし。
方丈記第一段を思い出しました。
誰であれ、
その一生は流れる川のように、
緩やかであっても
確実にその在り方を変化させ、
絶えることなく紡がれていくのです。
百年文庫全100巻の中でも
とりわけ深い味わいの一冊です。
ぜひご賞味ください。

〔百年文庫024 川〕
 織田作之助
吉備津の釜 日影丈吉
津の国人 室生犀星

〔青空文庫〕
「蛍」(織田作之助)
「津の国人」(室生犀星)

〔織田作之助の本〕
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三人の作家とも、
根強いファンが多いのでしょう。
まだまだ流通しています。
しっかり味わい尽くしましょう。

(2023.6.14)

渡邉 一矢によるPixabayからの画像

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