日本が選択したのは「人命軽視」
「太平洋戦争 日本の敗因3」
(NHK取材班)角川ソフィア文庫
マリアナ沖海戦での失敗が、
科学的に分析されていれば、
若者の命を特攻によって
粗末にすることの無意味さを
悟ることもできたはずである。
しかし科学軽視の
日本の戦術家たちは、
電波兵器に対抗するに
人道無視の方法を選んだ…。
先日来取り上げている
「太平洋戦争 日本の敗因」シリーズの
第3巻です。
副題は「電子兵器 「カミカゼ」を制す」、
つまり、アメリカ軍が導入した
エレクトロニクス兵器による
科学的理論的な戦術が、
日本の「攻撃は最大の防御」という
精神論に裏打ちされた武士道的戦術を
一蹴するに至った経緯を、
見事に解き明かしているのです。
〔本書の内容〕
まえがき
プロローグ
1 サイパンを死守せよ
2 日本のレーダー
3 日米の兵器思想
4 戦いを制したエレクトロニクス技術
エピローグ
参考資料・文献 あとがき
第一章「サイパンを死守せよ」では、
日米双方にとって南国サイパン島が
太平洋戦争全体の戦局を左右する
要衝であったことが述べられています。
したがってサイパン島の攻防こそが
天王山の戦いであったのです。
日本が取った戦術は
従来通りの「アウト・レンジ戦法」
(敵の攻撃が届かない範囲からの
戦闘機による長距離先制攻撃)による
積極的な攻撃、
アメリカ軍は
最新鋭のレーダーシステムで
相手の出方をうかがう
防御型の戦術を採用していたことが、
具体的なデータを元に
解説されていきます。
では、日本では
アメリカのようなレーダー技術が
なかったのか?
決してそうではないことが、
第二章「日本のレーダー」で
説明されています。
日本軍がレーダー設備を
導入しなかったのは、
レーダーは卑怯という
「間違った武士道精神の浸透」、
軍隊による兵器優先の「科学技術軽視」、
それによる戦闘の現場と
技術者の「意思疎通の欠如」、
他分野にまたがる技術者集団を
「統括する指揮系統の欠如」、
陸軍と海軍の「縦割り組織の弊害」、
そうした「いかにも日本的」な
悪弊の積み重なりであることが
よく分かります。
そしてその違いはどこから来るのかを
明らかにしているのが
第三章「日米の兵器思想」、そして
第四章「戦いを制した
エレクトロニクス技術」です。
アメリカ軍の思想の根底には、
自国民および自国兵士の
生命優先があるのに対し、
圧倒的な国力の差を埋めるために
日本が選択したのは
「人命軽視」による穴埋めであることが
解き明かされていきます。
もともとアメリカに対しての戦争は、
国力差を考えると無謀だったのです。
軍需物資も兵器も弾薬も燃料も
つぎ込めないとすれば、
あとは「人間そのもの」を
つぎ込んでいくしか
なかったのでしょう。
その結果として日本がたどった末路が
最後の「エピローグ」に綴られています。
特攻戦術です。
しかしそれすらも、アメリカの
エレクトロニクス技術の前には
無駄に命を散らしただけに
終わったのです。
さて、
ここから現代日本を考えていくと、
その風潮は決して
戦時中特有のものではないことに
気づかされます。
日本の経済力の衰退に伴い、
企業も国も、人命を考えずに
労働を強いてきた経緯があります。
「非正規雇用による低賃金労働」、
「ブラック企業による
不正な長時間労働」、
そして国による「特給法による
教員の定額働かせ邦題の現状」等々、
人間を使い捨ての
駒のように扱う状況は、
現在も続いているのです。
自国民の命を大切にしないのですから、
外国人の生命や人権については
さらに冷酷です。
先日可決された「改正入管難民法」などは
その最たるものでしょう。
私たちは人間の生命の大切さを
真剣に見つめ直し、
新しい「日本人としての在り方」を、
積極的に模索していく
必要があると感じます。
80年前の失敗を繰り返さないためにも。
〔「太平洋戦争 日本の敗因」全6巻〕
1 日米開戦 勝算なし
2 ガダルカナル 学ばざる軍隊
3 電子兵器「カミカゼ」を制す
4 責任なき戦場 インパール
5 レイテに沈んだ大東亜共栄圏
6 外交なき戦争の終末
かつてこの本を
すべて所有していたのですが、
処分してしまいました。
先日、丸山静雄著
「インパール作戦従軍記」を読んで
ふと思い出し、
全6冊を中古で購入し直し、
再読している最中です。
手放したとしても、
再入手は容易になりました。
本は今や、人類の共有財産です。
(2023.6.27)
【DVD「ドキュメント太平洋戦争」】
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