「バスカヴィル家の犬」(ドイル)

天才的探偵対天才的犯罪者、逆襲のシャーロック!

「バスカヴィル家の犬」
(ドイル/日暮雅通訳)光文社文庫

魔犬伝説の伝わる
バスカヴィル家。
その当主チャールズが怪死し、
遺産相続人として
甥のヘンリーが探し出される。
しかし彼の帰還を
望まない者がいるらしく、
「ムアに近づくな」という
警告が届けられる。
依頼を受けたホームズは…。

ドイルによる
シャーロック・ホームズ・シリーズの
長篇第三作です。
四つある長篇の中で
もっとも人気の高い作品であり、
何度となく映像化されています。
昨年2022年には、
「バスカヴィル家の犬
シャーロック劇場版」
として
日本でも制作されました。

〔主要登場人物〕
「わたし」(ジョン・H・ワトスン)
…語り手。医師。
 ホームズの助手として事件に関わる。
シャーロック・ホームズ
…探偵コンサルタント。
 事件解決に乗り出す。
サー・チャールズ・バスカヴィル
…バスカヴィル家当主だったが、
 怪死を遂げる。
サー・ヘンリー・バスカヴィル
…チャールズの甥。
 遺産相続人として探し出される。
 バスカヴィル家に入らないよう
 何者かから警告を受ける。
ヒューゴー・バスカヴィル
…バスカヴィル家の何代か前の当主。
 悪事を働き、
 「魔犬」によってかみ殺された。
ジェイムズ・モーティマー
…医師。チャールズ卿の友人。
 ヘンリーのバスカヴィル家帰還に際し
 ホームズに助言を求める。
バリモア夫妻
…バスカヴィル家執事夫妻。
パーキンズ
…バスカヴィル家馬屋番。
ジャック・ステイプルトン
…バスカヴィル家の近隣に住む
 植物学者。
ベリル・ステイプルトン
…ジャックの妹。美しい女性。
 ヘンリーが一目惚れする。
フランクランド
…訴訟好きの老人。
ローラ・ライオンズ
…チャールズが怪死した際、
 面会の予定があった女性。
カートライト
…ホームズが雇った少年助手。
ジョン・クレイトン
…ヘンリーを尾行していた男を
 乗せていた馬車の御者。
セルデン
…脱獄囚。バスカヴィル家のある
 ムアに潜んでいた。

本作品の味わいどころ①
伝説?怪談?魔犬は実在するのか?

ホームズは理論派探偵であり
(探偵の多くがそうなのだが)、
伝説や怪談の類いは
全く相手にしません。
「魔犬」なるこの世のものとは思えない
怪物の登場する作品は、
日本の乱歩や戦前の横溝の
得意分野でしたが、
ホームズ作品としては珍しい設定です。
この「魔犬」は実在するのか?
チャールズ卿の怪死は
「魔犬」の呪いなのか?
この怪物「魔犬」こそ、
本作品の第一の味わいどころです。

本作品の味わいどころ②
ホームズを出し抜く知的凄腕犯罪者

サー・ヘンリーが
ホームズを訪れたあと、
ホームズはすぐさま
怪しい人物の探索に出動します。
しかしその人物はホームズに
気づくやいなや姿を消し去ります。
ヘンリー卿のホテルの宿泊客にも
怪しい人物は投宿しておらず、
怪人物は容易に尻尾を掴ませません。
それどころか、使用した馬車から
ホームズの捜査の手が及ぶのを予見し、
御者に「自分は
シャーロック・ホームズである」と
名乗るなど、
大胆不敵な犯罪者なのです。

多くのホームズ作品の場合、
殺人事件に限っては、
すでに起きた事件の謎を解く
パターンがほとんどなのですが、
本作品ではヘンリー卿の殺害を予見し、
未然に防ぐ戦いが
繰り広げられるのです。
天才的探偵対天才的犯罪者、
それこそが本作品の
第二の味わいどころなのです。

本作品の味わいどころ③
終盤で再登場!逆襲のシャーロック

ところが、
直接対決は終盤までお預けです。
なぜならバスカヴィル家のある地・
ムアに、ヘンリーとともに乗り込むのは
ワトスンだけだからです。
多忙なホームズはワトスンに
ヘンリー卿護衛と先行調査を任せ、
自身はワトスンからの報告を受けて
推理するという設定です。
ムア入りしたあとの本編の大部分は
ワトスンの目で見た謎が
語られるのです。
それがさらに一層謎を深める効果を
深めています。

そしてホームズは、
終盤にあっと驚く登場を果たし、
犯人を追い詰め、
事件を解決するのです。
ロンドンでの借りを
ムアで倍返しにした形のホームズ、
逆襲に成功、
意外な事実が明かされるとともに、
事件は無事解決するのです。
この逆襲するホームズの
圧倒的な名探偵ぶりこそ、本作品の
最大の味わいどころといえるのです。

「最後の事件」で、
ホームズを葬り去ってしまったドイル。
そのドイルが8年ぶりに放った
ホームズ新作が長篇の本作品なのです。
まさに満を持しての登場であり、
ホームズ・シリーズ復活の
狼煙でもあったのです。
面白くないはずがありません。
当時の英国民米国民が
どれだけ狂喜したことか。
120年前の読者の目線に立って、
本作品を十分に味わい尽くしましょう。

〔関連記事:ホームズ・シリーズ〕

〔光文社文庫:ホームズ・シリーズ〕
「緋色の研究」
「四つの署名」
「シャーロック・ホームズの冒険」
「シャーロック・ホームズの回想」
「バスカヴィル家の犬」
「シャーロック・ホームズの生還」
「恐怖の谷」
「シャーロック・ホームズ最後の挨拶」
「シャーロック・ホームズの事件簿」
ホームズ・シリーズは
いろいろな出版社から
新訳が登場しています。
私はこの光文社文庫版が一番好きです。

(2023.8.4)

〔関連記事:古典的ミステリ〕

YuriによるPixabayからの画像

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