「万国幽霊怪話」(押川春浪)

自らの精神を百二十年前に遡らせて味わうべし

「万国幽霊怪話」(押川春浪)
(「押川春浪幽霊小説集」)国書刊行会

「押川春浪幽霊小説集」

オオ、真の幽霊!
真の幽霊なるものありやなしや、
恐らくはなかるべし。
果たしてなきかと問われれば、
余は「然り」と断言することが
出来ぬのである。
幽霊ありやなしやは、
その霊魂が永久に
消滅すべきものなりや否やの
問題と共に…。
「変幻怪異の発端」

押川春浪の本が
新たに刊行されることなど、
もはや永久にないものと
考えていました。
押川春浪の作品が読みたければ、
古書を丹念に探すしかないと、
思い込んでいました。
ところが今年(2023年)1月に、
ひっそりと出版されていました。
まったく気づきませんでした。
8月に東京に出張した際、
立ち寄った書店の棚に収まっている
一冊を見て驚き、
そのままレジに直行した次第です。

本書「押川春浪幽霊小説集」には
5篇の作品が収められているのですが、
冒頭に置かれた本作品は、以下のように
序文「変幻怪異の発端」を含めて
全37篇からの怪談集となっています。
実は本作品が刊行されたのは
1902年(明治35年)。
その後、1908年に
一度復刊されるのですが、以来、
絶版状態が100年以上にわたって
続いていました。
青空文庫にも
収録されていないのですが、
「国立国会図書館近代
デジタルライブラリー」
で読むことは
可能でした。
ただし、当時出版された古書を
デジタル写真として
保存しているだけであり、
読みにくさこの上なく、
押川春浪ファンの私でさえ、
数篇読んだきり接していませんでした。
今回の刊行は
非常に喜ばしく感じています。

〔本作品の構成〕
変幻怪異の発端
イタリア恐怖談 橙の花束
ロンドン劇場の出火
デンマーク城址の住人
ロシアの髑髏奇談
大西洋の人魚奇談
インド洋中 海底の亡魂
スイス山中の水車小屋
ロシアの迷信嬢
ネーブルス湾頭 何者の境墓ぞ
シナ怪談 空中の白刃
フランス 役者の生首
セルヴィア国 属官の気死
奇なる猫塚
ギリシャ美人の逆埋
梢の三尺帯の始末
滑稽なるブランコ往生
米国の鉄道怪談
ベルギーの盲人の怨念
イスパニアの黒装束
ルーマニア怪談 白椿の一輪
逆様の卒塔婆
ブルガリアの怪樹
コンゴー国にて 英国士官の横死
怪殿の悪老婆
オレンジ国の毒蛇
怪の軍艦の影
滑稽怪談 朧夜の三人
悪婦の呪い
山中の乱髪白衣
オーストリアの死人娘
幽霊の対盲人対策
ナムセン河畔 空家の詩人
動物電気の作用
ブルガリアの化粧鏡
ルーマニアの娘の墓
スウェーデン理学士の幽霊奇説

国名が表記されている作品が
大半ですが、
そうでない作品で描かれている
国や地域を挙げていくと、
ポルトガル、マダガスカル、中国、
セルビア、スペイン、コンゴ、
ノルウェー等々、南米を除く
ほぼすべての世界にまたがっています。
怪談集というよりは、
「押川春浪諸国漫遊記」といった趣です。
明治という情報の乏しかった時代、
これだけの怪異譚を集めてくるのは、
並大抵のことではないでしょう。

読んでみると、いたるところに
押川春浪節が炸裂しています。
科学的事実などには目をつむり、
少しでも面白いと思えたものを
取り上げて作品に仕上げています。
「毒蛇コブラが
児を産んでいる処を見た者は
三年のうちに死ぬ」
(「オレンジ国の毒蛇」)などは
噴飯ものですが、
当時ヘビをはじめとするハチュウ類が
卵生であることを知っていた一般人は、
決して多くはなかったでしょうから、
これでいいのです。
そしてそれでありながら、
変な脚色をつけていないところも
押川らしい手法です。
「前触れ現象」のようなものを
付け足して
おどろおどろしさを醸し出したり、
話を盛ってデフォルメしたり
していない(と思われる)ところが
本作品の特徴であり、
味わいどころでもあります。

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今日のオススメ!

押川春浪作品のほぼすべては、
当時の青少年向けに創られた
エンターテインメントです。
本作品も同様であり、
岩波文庫の「日本児童文学名作集」上巻に
本作品の抄録が掲載されています。
現代の若者が読んでも、
まったく面白くもなんともないのは
仕方ありません。
しかし本作品は、
娯楽のほとんどなかった明治の時代、
少年少女たちの心を
ときめかせていたであろうことは
容易に推察できます。
本作品は、
自らの精神を120年前に遡らせ、
明治の少年少女の心で
味わい尽くす必要があるのです。

〔「押川春浪幽霊小説集」〕
万国幽霊怪話
幽霊旅館
黄金の腕環
南極の怪事
幽霊小家
付録一 酒に死せる押川春浪
付録二 余の見たる押川春浪
付録三 押川春浪関係年譜

〔押川春浪の作品について〕
そういう理由から、
押川春浪の作品を未読の方には
お薦めできません。
現代のものさしを持ったまま
本作品を読もうとすると、
「こんなものが怪談か!」と怒りだし、
本書を投げつけてしまう
結果になるでしょう。
押川春浪のコアな世界に入るためには、
まずは「海底軍艦」を読むことを
お薦めします。
「海底軍艦」は
青空文庫で読むことができます。

やや根が張りますが、
ペーパーバック版も登場しています。

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本書に続いて、
「海底軍艦」をはじめとする多くの作品が
紙媒体として復刊することを
期待しています。

(2023.9.11)

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