「日本はアジアを侵略した」という事実
「太平洋戦争 日本の敗因5」
(NHK取材班)角川ソフィア文庫

九七パーセントが、生きて
日本に帰ることはなかった。
レイテ戦以降の一〇か月間に、
フィリピン全体で
戦死した日本兵は
四七万人に達する。
レイテ島をはじめ
フィリピンでいったい何が起き、
なぜ厖大な日本兵の命が
失われたのか…。
先日来取り上げている
「太平洋戦争 日本の敗因」シリーズの
第5巻です。
サブタイトルとして
「レイテに沈んだ大東亜共栄圏」と
あるように、
レイテ沖海戦そのものではなく、
大失敗に終わった
フィリピン統治について、
その原因を探って「失敗の本質」を
明らかにしているのです。
〔本書の内容〕
まえがき
プロローグ
1 争奪戦の幕開け
2 幻の「大東亜共栄圏」
3 マッカーサーの伏兵
4 知られざるレイテ決戦
5 二頭の巨象と蟻
参考文献
この第5巻は、これまでの4冊とは
やや趣を異にしています。
これまでは日本軍中枢部での
作戦立案の無謀ぶりや
情報軽視による判断ミス、
そして判断を先送りにする
意志決定機関の欠如等、
当時の日本軍の組織の欠陥を検証し、
それが現代日本にも
受け継がれているのではないかという
問題提起が主軸となっていました。
第5巻は、そうした部分も含めながら、
むしろ現地での日本兵の失敗や、
アメリカの統治の正体、
フィリピン国民の被害の実相や
当時の受け止め方など、
「現地での失敗」に焦点を当てています。
「1 争奪戦の幕開け」
「2 幻の「大東亜共栄圏」」では、
アメリカ兵を追い出し、
フィリピンの占領に成功した日本軍が、
横暴の限りを尽くした結果、
フィリピン国民を
敵に回してしまった経緯や、
その反日・抗日感情が
他のアジア諸国よりも強いものとなった
背景が描かれています。
その国の文化や国民性を無視して
日本語・日本文化・日本様式を
無理強いした結果ではあるのですが、
フィリピン国民に浸透していた
民主主義・自由主義の考え方、
日本以上に高かった生活水準、
そうした背景が、
日本軍指揮官の無知と相まって、
人心掌握の失敗へと
結びついたことが語られていくのです。
「3 マッカーサーの伏兵」では、
アメリカ軍司令官マッカーサーの
狡猾さと執念深さが説明されています。
一度は退いたマッカーサーが、
「I shall return」の
キャッチフレーズを上手に活用し、
フィリピン国民の心を
つなぎ止めるとともに、
フィリピン兵をゲリラとして組織し、
スパイ活動を展開していったのが、
後のフィリピン奪回へと
繋がっていったのでした。
「4 知られざるレイテ決戦」では、
これまでの4巻同様、日本の司令部の
「機能不全」に焦点を当てています。
情報を的確に得て、
大胆な決戦の計画変更を行った
アメリカ軍に対し、
「台湾沖航空戦」で「大戦果」
(航空母艦11隻・戦艦2隻を撃沈)を
挙げたという「誤報」
(実は1隻も沈めていなかった)を信用し、
(海軍が隠蔽、
司令部はそれを微塵も疑わなかった)、
現地からの状況報告と意見具申を
「陛下のご命令」と一蹴した
日本の司令部が、
対比的に描かれているのです。
戦線の至る所で見られた
「致命的な判断ミス」が、
大東亜戦争の最終局面でも
現れていたのです。
最終章「5 二頭の巨象と蟻」では、
日米に翻弄されたフィリピンの悲劇を
振り返っています。
日本とアメリカという「巨象」が争い、
その足下で踏みつけにされた「蟻」が
フィリピンであるという見立ては
的確です。
そしてそれは形を変えて、
戦後も経済進出という形で
継続していることを、
本書は伝えています。
本書の詳細な取材報告は、
大東亜戦争において、
「日本はアジアを侵略した」という事実を
改めて現代の私たちに
突き付けてきます。
近年は「自虐的歴史観」という考え方が
台頭したこともあり、
そうした事実から意図的に
目を背けようとしているかのような
動きも見られます。
しかし現代を生きる私たちは、
少なくともこうした資料から、
事実を的確に読み解いていく
必要があるのではないかと思うのです。
終戦から78年が経過し、
昭和・平成が終わって迎えた令和の時代、
本書の価値は減じるどころか
ますます大きくなっていると考えます。
ぜひご一読を。
〔「太平洋戦争 日本の敗因」全6巻〕
1 日米開戦 勝算なし
2 ガダルカナル 学ばざる軍隊
3 電子兵器「カミカゼ」を制す
4 責任なき戦場 インパール
5 レイテに沈んだ大東亜共栄圏
6 外交なき戦争の終末
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