「由利・三津木探偵小説集成①真珠郎」(横溝正史)

金田一シリーズとは雰囲気がまったく異なります

「由利・三津木探偵小説集成①真珠郎」
(横溝正史)柏書房

「由利・三津木探偵小説集成①真珠郎」

銀座の百貨店の
ショーウインドウから
見つかった女の首。
事件はそれだけで終わらず、
続いて腕、脚が見つかる。
脚を発見した
青年・由利燐太郎は、
その現場で無数の鉄の針の
装着された鎧を着た、
ゴリラのような
生き物を目撃する…。
「獣人」

墓村幽の味わえ!横溝正史ミステリー

横溝正史といえば
金田一耕助が真っ先に思い浮かぶ方が
多いと思うのですが、
戦前の横溝作品で
主役を張っていたのは
由利麟太郎と三津木俊助のコンビです。
作品の多くは
絶版となって久しいのですが、
嬉しいことに2018年、
全4巻の「由利・三津木探偵小説集成」が
柏書房より刊行され、
全作品を紙媒体で読むことが
可能になりました。
本書はその第1巻であり、
初期の6作品が収録されています。

〔「由利・三津木探偵小説集成1」〕
獣人
白蠟変化
石膏美人
蜘蛛と百合
猫と蠟人形
真珠郎

今日のオススメ!

死刑判決を受けたかつての
婚約者・慎介を救うため、
月代は資産をつぎ込み、
脱獄計画を練る。
首尾よく進んだものの、
脱獄した男は慎介ではなかった。
それは詐欺・恐喝強盗・
誘拐等の罪で服役していた
希代の犯罪人・
白蠟三郎だった…。
「白蠟変化」

墓村幽の味わえ!横溝正史ミステリー

それにしても、由利・三津木シリーズは、
金田一ものとは
雰囲気がまったく異なります。
一番の特徴は、
化け物キャラクターの登場です。
「獣人」ではそのものずばり「獣人」、
ゴリラのような怪人が登場します。
しかも鋼鉄の針を植え付けた
鎧を着込んでいるという、
漫画にでも登場しそうな出で立ちです。
「真珠郎」には超人的な美少年殺人鬼、
「蜘蛛と百合」には、
醜悪な容貌の「蜘蛛三」と
女殺人鬼ともいえる妖艶な未亡人が、
「白蠟変化」にいたっては、
登場人物すべてが変人奇人です。

新日報社記者・三津木俊助が
車で社から出ようとしたとき、
一台のトラックが
ぶつかってきた。
その荷台に積んであった
白木の箱から飛び出した
一本の腕。
三津木が調べると、
それは人形の腕だった。しかし、
その人形の顔はなんと…。
「石膏美人」

墓村幽の味わえ!横溝正史ミステリー

多くの探偵小説が、
ホームズ&ワトスンの形を踏襲し、
横溝もそれに倣っています。
由利麟太郎が名探偵ホームズなら、
三津木俊助は助手の役割と
いえるのですが、ワトスンとは異なり、
ただの「記録係」ではありません。
事件に深く巻き込まれていくのです。
「猫と蠟人形」では
俊助の義兄(妹の夫)が殺害され、
捜査に当たります。
「石膏美人」では俊助の恋人が
犯人から狙われます(その後、失恋!)。
さらに「蜘蛛と百合」では、
犯罪者の妖艶な美女に
籠絡される始末です。
三作品において事件の
当事者となってしまう三津木俊助。
特異なワトスン役です。

俊助の友人で、
類い希なる美貌の男・瓜生が
何者かに刺殺される。
瓜生は最近、
妖艶な女性・百合枝と
つきあい始めて
いたことがわかる。
三津木俊助は百合枝に接近し、
事件の真相を暴こうとする。
ところが俊助もまた
彼女の魅力に酔い…。
「蜘蛛と百合」

墓村幽の味わえ!横溝正史ミステリー

そしてこのシリーズには
いろいろなバリエーションがあり、
由利・三津木で
コンビを組むばかりでなく、
「由利単独」「三津木単独」もあるのです。
ヤング由利の物語である「獣人」が
由利単独なのは当然としても、
長篇作品の
「真珠郎」も三津木が登場せず、
由利が単独で捜査にあたります。
一方、「猫と蠟人形」では、
三津木が由利の力を借りずに
明快な推理を展開します。

大川の河岸にある洋館から
通子が川面を眺めていると、
小さな空き瓶とともに
流れ着いてきたのは蠟人形。
しかしその人形の胸には
通子の夫の矢田貝博士の胸にある
刺青と同じ模様が描かれ、
さらには短刀が
深々と突き刺さっていた…。
「猫と蠟人形」

墓村幽の味わえ!横溝正史ミステリー

さて、本書に収録されている6作品は、
かつて角川文庫に収録されていました。
しかしそのテキストはやや異なります。
本書は「初出または初刊のテキストに
準じて再編集」されてあるためです。
角川文庫ですべて持っていたのですが、
原典版ともいえるものであり、
本書も購入してしまいました。

大学講師の「私」は
同僚の乙骨に誘われ、
信州を旅する。二人はそこで
資産家の老人・鵜藤と
姪の由美が住む
春興楼という屋敷を紹介され、
滞在することになる。
ある夜、二人は
水に濡れた美少年が
柳の木の下に立っているのを
目撃する…。
「真珠郎」

墓村幽の味わえ!横溝正史ミステリー

さらに付録も充実していて、
「六人社版「真珠郎」序文ほか」
「名作物語「真珠郎」」が付されています。

「六人社版「真珠郎」序文ほか」
この小説をお読みになる
読者諸君に真先に
申上げたいことがあります。
それはこの小説には、
作者の従来の名作「鬼火」「蔵の中」
古くは「面影双紙」などには
全く見られなかった
一つの重大な魅力が附加わって、
その完璧さに於いて、…。
「序」(江戸川乱歩)

乱歩の序文のほかには
「紫の弁」(水谷隼)、「自序」(横溝)が
収録され、本書の魅力を高めています。

「名作物語「真珠郎」」
X大学英文科講師の椎名耕助は、
その夏、
同僚の乙骨三四郎に誘われて、
浅間山麓N湖畔へ
避暑旅行におもむいた。
彼等が泊った家は、
ふしぎなくらい間数が多かった。
病臥中の主人鵜藤氏が、
この不思議な邸宅で、
姪の由美と…。

こちらは5頁に集約した
ダイジェスト版ですが、
本文よりも挿絵が
ノスタルジックを喚起します。
巻末の「編者解説」も丁寧であり、
資料としても貴重です。

全作品を網羅した「横溝正史全集」の
実現は困難である以上、
由利・三津木シリーズをすべて押さえた
この全4巻は、横溝ファンにとって
必携アイテムであることは確かです。
また、金田一しか知らない
横溝ビギナーにとっても
次のステップのための
一冊となる筈です。そして
横溝正史を知らない方にとっては、
懇切丁寧な道しるべになるでしょう。
ぜひご賞味ください。

(2023.12.8)

〔関連記事:由利・三津木シリーズ〕

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