「動物学科空手道部1年高田トモ!」(片川優子)

それでいて等身大の若さが漲っている

「動物学科空手道部1年高田トモ!」
(片川優子)双葉文庫

「これしかない。
大学生活を賭けるべき
価値のあるもの」。
大学入学早々、
トモはそう決意し、
空手道部に入部する。
「いっさい女らしさを捨てる」
「一つのことをやりきる」と
決意したトモは、
空手の練習、動物学科の学習、
そして恋に…。

現在開業医(獣医)として活躍している
片川優子さんが、
まだ大学生のときに書いた作品です。
これまで「佐藤さん」「ただいまラボ」
「ぼくとニケ」
三作品を取り上げましたが、
こちらも素敵な作品です。

〔主要登場人物〕
「私」(トモ・高田友恵)

…動物学科で学ぶ大学生。
 空手道部に入部する。
ミヤビ・愛ちゃん・マル・
和久ちゃん・カナ(滝川カナ)

…「私」と同じ学科の大学生(女子)。
栄・秋吉
…「私」と同じ学科の大学生(男子)。
築山楓
…「私」と同じ学科の大学生。
 「私」と交際を始める。
真知子・岡本・増野
…空手道部に入部した1年生女子。
 フルネームは麻地真知子、岡本藍子。
山ちゃん
…「私」の中学・高校時代の同級生。
テラダコウジ
…「私」が高校2年のわずかな期間、
 付き合っていた男子。
「お姉ちゃん」…「私」の姉。

本作品の味わいどころ①
動物学科のキャンパスライフ

表題にある「動物学科」。
女子の多くが
文系大学を受験している昨今、
「動物学科」や「獣医学部」
「畜産学部」「農学部」を選択する女子は、
決して多くはないはず(最近
増えているということですが)です。
動物学科の女子大生が
どんなキャンパスライフを送るのか?

と畜見学や搾乳実習の
様子は描かれます。
しかし、それだけであり、
詳しい実習風景や授業内容は
ほとんど描かれていません。
「ただいまラボ」に見られた濃厚な
学びの風景はここにはないのです。
ちょっと肩透かしを食らった気分です。

本作品の味わいどころ②
空手道部に打ち込む大学生活

表題にある「空手道部」。
女子大生のスポーツとして連想するのは
テニス・サークルあたりなのですが、
「空手」、しかも「道」つき、
しかもサークルではなく「部」。
もしかして「スポ根」?
空手道部の女子大生が
どんな部活動生活を送るのか?

合宿や大会での様子が
挿入されています。
しかし、それだけであり、
歯を食いしばって練習に打ち込む姿や、
大会で負けて
挫折をとことん味わうような、
ありがちなスポーツ・ドラマは
ここにはないのです。
予想はしていたのですが、
やや肩透かしを食らった印象です。

本作品の味わいどころ➂
女らしさを捨てた女の子の恋

「恋愛」については
表題に盛り込まれていません。
しかも冒頭で「女らしさを捨てる」と
決意した以上、恋愛が描かれるとは
思っていなかったのですが、
物語中盤で「私」は
しっかり恋に落ちてしまいます。
女らしさを捨てた女子大生は
どんな素敵な恋愛体験をするのか?

楓との恋愛が描かれるのですが、
始まるまでに
紆余曲折があるわけでもなく、
始まってからも
やきもきさせられるような展開が
あるわけでもなく、
しかも唐突に終了する、
起伏に乏しい恋愛物語です。
ここまでくると完全な肩透かしです。

でも、これでいいのです。
本作品を「ドラマ」として
読んではいけないのでしょう。
ここにはまったく作為めいた
あざとさが皆無なのです。
作者はおそらく
獣医学部キャンパスライフの
衝撃的な実態を描くつもりも、
女子大生空手道部員の
成長物語を書き上げるつもりも、
女を捨てた女の子の
ドキドキするような恋愛物語を
創り上げるつもりも
なかったに違いありません。
なぜなら本作品発表の2008年段階で、
作者はまだ
現役大学生だったのですから。

そうした観点から読み進めると、
一人の女子大生・高田友恵の
飾りっ気のない大学生活が
浮かび上がってくるのです。
たかだか19歳の大学生の目線から
見える風景には、
濃厚な学びが
広がっているのでもなければ、
ドラマティックな勝負が
あるものでもなく、
ましてや起伏の激しいラブロマンスが
あるわけでもないのです。
大学生活とは得てして
そのようなものではないでしょうか。

「薄味」といっては
作者に失礼に当たるかも知れませんが、
大学生を主人公とした小説には、
濃厚な味付けのものが多く、
辟易とさせられることがしばしばです。
あざとさもわざとらしさもない、
それでいて等身大の若さが漲っている
本作品、薄味ながらも
丁寧な味付けが施されています。
中学生、高校生に
薦めたいと思う一冊です。

(2024.1.8)

〔本作品の続編について〕
本作品の続編として、
「動物学科空手道部2年高田トモ!」
「動物学科空手道部卒業高田トモ!」
二作品が刊行されています。
ただし、本書も含めて
3冊ともすでに絶版中です。
古書を探して読んでみたいと思います。

〔関連記事:片川優子作品〕

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