「変化する陳述」(石浜金作)

「分かりやすさ」と「分からなさ」が同居した

「変化する陳述」(石浜金作)
(「新青年傑作選集1」)角川文庫

「新青年傑作選集1」角川文庫

だってもうそのほかに
手段がなかったのですもの……。
それでわたしくは
あの人をいっしょに……、
…………、…………。
…………、そして、思わず、
その時……、………、………。
見ると、あの人は
その時もうすでに、
息を切って…。

犯人の供述の部分から
抜き出しましたが、
何が何やら分からないかと思います。
しかしわけがわからないだけで
ありません。
「分かりやすさ」と「分からなさ」が
同居した、なんとも不思議な作品です。

「分かりやすさ」の一つは、
事件そのものです。
至って単純です。
新劇女優が不良青年を
殺害したというものであり、
その事実は動かしようもないのです。

〔主要登場人物〕
秋葉美子

…新劇女優。
 ホテルで不良青年を殺害する。
青木茂
…(不良)文学青年。意志薄弱。
 美子に殺害される。
橋場仙吉
…作家。
 同性愛者で青木茂を愛していた。
葛巻アヤ子
…美子の幼女時代の小学校の担任教師。

「分からなさ」の一つは、
表題通りに美子の供述が
変遷することです。
それは自分の罪を
隠そうとしているのでもないことが、
さらに「分からなさ」を深めています。
逮捕直後は「青木に
短銃(実はおもちゃだった)で
脅されたから
相手の額を殴り倒した」のが、
次にはその短銃が
自分の所有物であることが明かされ、
さらには脅迫そのものが
なかったことが判明するのです。
二人は愛し合っていて、
合意のもとで性交渉に入る直前、
事件が起きたのです。
では、動機はいったい何?
「分からなさ」はますます募ります。

美子の陳述は、
さらに冒頭の抜粋へと変化します。
しかしその供述もまた「………」が
不明です。
しかも明かされた調書には
「死因××××」とだけ。
しかしこれはその直後に
「分かりやすく」解説されています。
なんと「青木の下半身の一部分に
加えられた、瞬間の突撃」と。
確かにそれは「………」や「××××」としか
表しようがありません。

美子の陳述の変化する
要素となっている短銃についても、
事件には直接関係ないものの、
実は事件の背景と密接に繋がっていて、
「なるほど」と思える
「分かりやすさ」です。
品がないので書くことができませんが、
詳しくはぜひ読んでください、
としかいいようがありません。

登場人物にも「分からなさ」が漂います。
途中から名前だけが唐突に登場する
「葛巻先生」とは何者なのか?
これも最後まで読まないと
分かりません。

真っ先に出てくる作家・
橋場仙吉もまた「分からな」い人物です。
この人物が探偵役なのかと思えば、
決してそうではないのです。
しかし事件の背景を考えると、
彼の存在が重要にも思えてくるから
不思議です。
そして純粋な恋愛対象である
青木を失った美子と、
同性愛の相手である
青木を亡くした仙吉が、
悲劇とも喜劇ともつかない
「分からなさ」の結末を迎えます。
この点についても、詳しくは
ぜひ読んでゐいただきたいと思います。

そしてもっとも
「分からなさ」に包まれているのが、
作者・石浜金作の存在です。
雑誌「新青年」にいくつか
作品が掲載されているのですが、
彼自身の短篇のみが集められた作品集は
存在せず、
いくつかのアンソロジーを
丹念に探すか、初出誌をあたるか
しないと作品を読めないという、
なかなかにマニアックな作家です。

読み終えると、
他の作家の作品にはない、
独特の味わいのある作品であることに
気づかされます。
本作品が収録された本書も
すでに絶版となっています。
論創社の
「論創ミステリ叢書」シリーズから
「石浜金作探偵小説集」として
出版してほしいと願っているのですが…
それも「分からなさ」に満ちています。

(2024.2.16)

〔石浜金作作品収録本〕

〔「新青年傑作選集1」〕
永遠の女囚 木々高太郎
家常茶飯 佐藤春夫
変化する陳述 石浜金作
月世界の女 高木彬光
彼が殺したか 浜尾四郎
印度林檎 角田喜久雄
蔵の中 横溝正史
烙印 大下宇陀児

〔角川文庫「新青年傑作選集」〕
「1 犯人よ、お前の名は?」
「2 モダン殺人倶楽部」
「3 骨まで凍る殺人事件」
「4 ひとりで夜読むな」
「5 おお、痛快無比!!」

efesによるPixabayからの画像

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