「俊寛」(芥川龍之介)

どこまでもクール、リアル、ニヒル

「俊寛」(芥川龍之介)
(「芥川龍之介全集4」)ちくま文庫

「芥川龍之介全集4」ちくま文庫

「俊寛」(芥川龍之介)
(「羅生門・鼻」)新潮文庫

「羅生門・鼻」新潮文庫

俊寛様の話ですか?
俊寛様の話くらい
世間に間違って伝えられた事は、
まずほかにはありますまい。
いや、俊寛様の
話ばかりではありません。
このわたし―有王自身の事さえ、
飛でもない嘘が
伝わっているのです。
現についこの間も…。

先日、菊池寛による「俊寛」
(大正10年10月発表)を取り上げました。
平家物語で伝えられる
俊寛の悲惨な物語に、
得意の人情話的脚色を加えて
大きく転換させた筋書きは、
いかにも菊池寛らしい
幸福物語となっていました。
その菊池より四歳年下の芥川龍之介も、
菊池の「俊寛」発表のわずか二ヶ月後、
本作を発表しています。

〔登場人物〕
「わたし」(有王)

…語り手。俊寛の侍童だった。
 平家滅亡後、
 俊寛の消息を尋ね鬼界ヶ島を訪れる。
俊寛
…鹿ヶ谷での密議が露見し、
 鬼界ヶ島(薩摩)へ配流された僧。
 ともに流された成経と康頼は
 後に赦免されるが、
 首謀者と目された彼は島に残される。

菊池寛「俊寛」が
いかにも菊池寛らしいのと同様、
この芥川龍之介「俊寛」もまた
どこまでも芥川らしい作風となっていて
それがそのまま本作品の
味わいどころとなっています。

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本作品の味わいどころ①
どこまでもクールな俊寛像

菊池「俊寛」が挫折から立ち上がる
ホットな筋書きを纏っているのに対して
芥川「俊寛」は常にクールです。
鬼界ヶ島に流されても慌てず騒がず、
成経・康頼が卒塔婆流しに興じても
静観し続け、
赦免船から一人取り残されても
うろたえることなく、
有王との数年ぶりの再会にも
涙を流すわけでもなく、
クールな性格として描かれています。
平家物語以降の「悲劇の人」ではなく、
菊池同様に幸せな余生を送るのですが、
その人物像にはやはり作者である
芥川自身が反映されているのです。
そのクールな俊寛像を、
まずはしっかり味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
どこまでもリアルな筋書き

そのクールな人物像を完成させるため、
作者・芥川は
平家物語で描かれている俊寛の嘆きの
一つ一つに丁寧な注釈をつけ、
合理的に筋書きを展開しています。
やや説明的なきらいがあるのですが、
それもまた芥川らしいところです。
菊池「俊寛」では、
赦免船に取り残される場面までは
平家物語をほぼ踏襲して
「悲劇の人」とし、
それ以後の俊寛の人生を
存分に脚色していましたが、
芥川「俊寛」は、
平家物語の記述すべてを
塗り替えようとしているかのようです。
芥川の手の込んだ創作技法を、
次にじっくり味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
どこまでもニヒルな語り手

芥川の性格が反映されているのは
俊寛だけでなく、
語り手・有王もまた然りです。
有王のニヒルな語り口が
絶妙な味わいを見せているのです。
冒頭では二人の琵琶法師の語りについて
論じていますが、
前者は「平家物語」についてであり、
後者はなんと
菊池「俊寛」を指しているのです。
「もう一人の琵琶法師は、
 俊寛様はあの島の女と、
 夫婦の談らいをなすった上、
 子供も大勢御出来になり、
 都にいらしった時よりも、
 楽しい生涯を御送りになったとか、
 まことしやかに語っていました」
「後の琵琶法師の語った事も、
 やはり好い加減の出たらめなのです」

先輩作家の作風を貶すような語り口、
やはり芥川です。
この人を食ったような有王の語り口を、
最後まで存分に味わいましょう。

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さて、この「俊寛」は作家の創作意欲を
喚起する物語なのでしょうか、
菊池・芥川以前にも、
古くは世阿弥が能の演目とし、
近松門左衛門が「平家女護島」の中の
「鬼界ヶ島の段」として挿入し、
倉田百三もまた「俊寛」を著しています。
それらがすべて
濃厚な悲劇色に包まれているのに対し、
菊池・芥川の「俊寛」は形こそ異なれど、
ともに「幸福」にたどり着いています。
幸福な二つの「俊寛」、
どちらもご賞味あれ。

(2024.4.4)

〔青空文庫〕
「俊寛」(芥川龍之介)
「俊寛」(菊池寛)

〔関連記事:菊池寛「俊寛」〕

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〔ちくま文庫「芥川龍之介全集4」〕
杜子春
捨児

お律と子等と
秋山図
山鴨
奇怪な再会
アグニの神
妙な話
奇遇
往生絵巻

好色
薮の中
俊寛
将軍
神神の微笑
トロッコ
報恩記

〔新潮文庫「羅生門・鼻」〕
羅生門

芋粥

袈裟と盛遠
邪宗門
好色
俊寛

〔関連記事:芥川龍之介作品〕

〔ちくま文庫「芥川龍之介全集」〕

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