タイパ最高探偵ダゴベルトの魅力
「奇妙な跡」(グロラー/垂野創一郞訳)
(「世界推理短編傑作集2」)
創元推理文庫
産業クラブ会長グルムバッハから
事件捜査の依頼を受けた
ダゴベルトは、会長夫人とともに
現場へ急行する。
途中、夫人は
脚の不自由な物乞いを見つけ、
施しを行う。
わざわざ車を止めたことに
いらだちを覚える
ダゴベルトだったが…。
いきなりバーの「放心家組合」で
不意打ちを食らった
「世界推理短編傑作集2」ですが、
第2作である本作品は
きわめてまっとうなミステリです。
わずか14頁の短篇なのですが、
探偵ダゴベルトが
スピーディに事件を解決します。
〔主要登場人物〕
ダゴベルト
…私立探偵(であるという記述は
本作品には見あたらないが)。
※他の作品で明かされるフルネームは
ダゴベルト・トロストラー。
アンドレアス・グルムバッハ
…産業クラブ会長。
使用人が殺害された事件捜査を
ダゴベルトに依頼する。
ヴィオレット・グルムバッハ
…アンドレアスの妻。
ダゴベルトともに現場に向かう。
マリウス
…グルムバッハお抱え運転手。
マティーアス・ディーヴァルト
…森林管理人。
殺害され、現金を奪われる。
リップ…脚の不自由な物乞い。
本作品の味わいどころ①
タイパ最高探偵ダゴベルトの魅力
現代の若者たちの重視する
「タイム・パフォーマンス」、
いわゆる「タイパ」。
この探偵ダゴベルトの特徴を
一言で言い表すなら
「タイパの良さ」でしょうか。
依頼を伝達するために往路を
2時間で運転したマリウスに対して
探偵は時短を要求、
1分短縮につき2クローネを
報酬として提示、
復路を何と1時間32分で
駆け抜けさせるのです。
また、他の捜査官が
書類を作成している間に
すぐさま次の捜査を行い、
あっという間にスピード解決。
このタイパ最高探偵
ダゴベルトの魅力こそ、
本作品の第一の
味わいどころとなっているのです。
本作品の味わいどころ②
現れる謎、単純かつ不可解な事件
そのため筋書きも急展開、
わずか14頁で完了します。
そのわずかな紙面に、
次から次へと「謎」が提示されます。
提示しているのは
もっぱらダゴベルト自身。
犯人像について
「事情に通じた土地のもの」でなくては
ならないと言いつつ、
「手がかりは犯人が
よそものであることを示している」、
さらには「曲芸師か軽業師」、
よくわからない推理を
惜しげもなく披露するのです
(ホームズや明智、金田一は
絶対こんなことを口にしない)。
事態は混迷をきわめ、
単純でありながらも不可解な事件へと
急に変質するのです。
このダゴベルト自身が提示する「謎」を
読み解くことこそ、
本作品の第二の
味わいどころといえるでしょう。
本作品の味わいどころ③
意表を突いた結末、意外な犯人像
で、スピード逮捕した犯人が意外です
(といっても限られた登場人物ですので、
消去法でわかってしまうのですが)。
ポーの探偵デュパンが解き明かした
「モルグ街の殺人」の犯人級の衝撃
(それ以上とはいえないが)です。
この意表を突いた結末と
意外な犯人像こそ、
本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
しっかりと堪能しましょう。
もっとも犯人を指し示す証拠が
「後出しじゃんけん」的に
提示されるなど、
ミステリとしての疵も散見されます。
しかしそれを覆い隠すほどの、
短い頁に凝縮された
深い味わいがあるのです。
ダゴベルト。
ここにもまた魅力ある探偵が
隠れていたのです。
(2024.4.5)
〔探偵ダゴベルトシリーズ〕
作者バルドゥイン・グロラーは
この探偵ダゴベルトを
シリーズ化していて、
「探偵ダゴベルトの功績と冒険」として
短編群18篇を発表しています。
日本においては2013年に
創元推理文庫から9篇(本作品は
収録されていない)をまとめた
「探偵ダゴベルトの功績と冒険」が
出版されました
(しかし2024年現在絶版中)。
〔「世界推理短編傑作集2」〕
放心家組合 バー
奇妙な跡 グロラー
奇妙な足音 チェスタトン
赤い絹の肩かけ ルブラン
オスカー・ブロズキー事件 フリーマン
ギルバート・マレル卿の絵
ホワイトチャーチ
ブルックベンド荘の悲劇 ブラマ
ズームドルフ事件 ポースト
急行列車内の謎 クロフツ
〔「世界推理短編傑作集1」より〕
〔「世界推理短編傑作集」〕
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