「長方形の箱」(ポー)

読み手は薄々気づいてしまうのですが…

「長方形の箱」(ポー/渡辺温訳)
(「ポー傑作集」)中公文庫

「ポー傑作集」中公文庫

問題の箱は、長方形でした。
長さが約六呎、幅が約二呎半
――私は精密と言へる程、
気をつけて観察しました。
この形は甚だ
特異なものであつたので、
一見して私は自分の憶測の
正しかつたことを信じました。
一枚の、絵であらうと…。

ポーには船が遭難する作品が
いくつかあります。
これまで「メヱルストロウム」
「壜の中に見出された手記」
取り上げましたが、
本作品もそうしたものの一つです。
やはり主人公「私」の乗った船は
遭難します。
しかし遭難そのものの恐怖を
描いた作品ではありません。
問題は表題となっている
「長方形の箱」なのです。

〔主要登場人物〕
「私」

…語り手。詮索好き。
 「インデペンデンス号」に乗船する。
コルネリウス・ワイヤット
…若き画家。嫌人症。
 「私」と同じ船に乗り込む。
ワイヤット夫人
…画家の妻。おしゃべり。
 品性に欠ける面が見られる。
マリアン・ワイヤット
…画家の妹の一人。
ハアデイ船長
…「インデペンデンス号」の船長。

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本作品の味わいどころ①
想像可能な「箱に詰められたもの」

乗船名簿で見つけた画家である
友人の名前。
ところがその友人は、
客室を三つも予約していた。
名簿には妻と二人の妹の名前もあるが、
それにしてもなぜ三つ?
そんな疑問を抱いた詮索好きな「私」は、
部屋の一つを、特殊な積み荷
(船倉へ置くことのできないような)の
ためと考えたのです。
「私」の予想に違わず、
友人は「長方形の箱」を
船に運び込むのです。
1呎(フィート)≒0.305ですから、
箱のサイズは長さが約1.8m、
幅が約0.8mとなるのです。

友人は画家であることから、
「私」は安易に考えます。
箱の中身はおそらく「絵」だろうと。
しかしポー作品です、
おどろおどろしさが漂っています、
1.8m×0.8mの木の箱です、
船は嵐に遭遇します、
だとすれば…。
実は読む前から読み手は
薄々気づいてしまうのですが、
決してつまらない作品には
なっていません。
読み手は箱の中身がいつ現れるか、
ドキドキしながら最後まで
読むことになるのです。
「箱に詰められたもの」を想像し、
その登場を待つ。これこそが
本作品の第一の味わいどころなのです。

本作品の味わいどころ②
迫り来る画家の狂気と遭難の恐怖

そのドキドキ感のお膳立てをするのが、
「画家の狂気」と「遭難の恐怖」です。
嫌人症である画家の狂気が
少しずつ表出してきます。
そして船は嵐に遭遇、
乗員乗客はボートでの避難を
余儀なくされるのです。
「メヱルストロウム」
「壜の中に見出された手記」は
脱出不可能の超自然現象でしたが、
本作品は通常の台風です。
それでも刻一刻と
船が損傷していく描写は、
読み手の恐怖を十分にあおり立てます。
「箱」がいったん脇に寄せられ、
ポー作品特有の狂気と恐怖が
読み手を襲うのです。
これこそが本作品の
第二の味わいどころとなるのです。

本作品の味わいどころ③
露骨さを避けながらの謎解きの妙

では、箱の中身は
いつ読み手の眼前に現れるのか?
実は現れません。
箱を持ち出そうとした画家とともに
(画家は自らの身体を
箱に括り付けて海へと脱出を試みる)
海の藻屑と消えるのです。
しかし、船長の言によって
その正体が明かされるしくみです。
木の箱が浮かび上がると考えた
「私」の予想に反して、
箱はそのまま沈んで消えます。
それに対して船長は
「沈むのが当然です。
 併し、直ぐにまた
 浮かんで来るでせう
 ――塩が溶けさへすればね」

箱の中身が
いかにもという形で描かれてしまえば、
単なるB級ホラーで
終わってしまうでしょう。
露骨さを避けながら謎解きをして
幕を閉じる。
これこそが本作品の最後の
味わいどころとなっているのです。

結末がわかっていても、
また読みたくなる。
良い作品というのは
そうした吸引力を持っているものです。
素材一つで勝負するのではなく、
文学的な要素で
しっかりとその周辺を構築していく。
これこそが文学の在り方であり、
私たちはそこを丹念に
咀嚼する必要があるのです。
ぜひご賞味あれ。

(2024.4.18)

〔「ポー傑作集」〕
黄金虫 渡辺温 訳
モルグ街の殺人 渡辺温 訳
マリイ・ロオジェ事件の謎 渡辺温 訳
窃まれた手紙 渡辺啓助 訳
メヱルストロウム 渡辺啓助 訳
壜の中に見出された手記 渡辺温 訳
長方形の箱 渡辺温 訳
早過ぎた埋葬 渡辺啓助 訳
陥穽と振子 渡辺啓助 訳
赤き死の仮面 渡辺温 訳
黒猫譚 渡辺啓助 訳
跛蛙 渡辺啓助 訳
物言ふ心臓 渡辺温 訳
アッシャア館の崩壊 渡辺啓助 訳
ウィリアム・ウィルスン 渡辺温 訳
渡辺温 江戸川乱歩
春寒 谷崎潤一郎
温と啓助と鴉 渡辺東 著

〔たくさんあるポーの文庫本〕

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