「日本語はおもしろい」(柴田武)

日本語にぎっしり詰まっている不思議や魅力

「日本語はおもしろい」(柴田武)
 岩波新書

たのしい日本語の話題十五章は、
構造をもった「言語」と、
それの時代による「変動」、
それらの中心にいる「人間」、
この三つのことにしぼられる。
日本人という「人間」が
日本語という「言語」を学ぶが、
のちに、
言語の構造を「変動」させる…。

本棚の奥に眠っていた本を
久しぶりに取り出してみました。
もう三十年近く前に買った本で、
処分しようと思いましたが、
何となく気になり、
手に取ってみました。
奥付に鉛筆でメモ書きしてあった
読了日は平成8年1月22日。
四半世紀以上前でした。

〔本書の構成〕
 はしがき
Ⅰ 人間
 自分のことばに返る
 無視できない話者語源
 全国語・みやこ語・共通語
 長くない外来語の長音
 学術用語の課題は日本語の課題
 索引はよく間に合うガイド
Ⅱ 言語
 味覚・料理のことばの三角柱
 オノマトペの宮沢賢治
 桃太郎の日本語
 清少納言の「春はあけぼの。」
 高利と小売りは違うぞなもし
 符牒はどこまで隠語か
Ⅲ 変動
 目立たないアクセントを目指す
 複数回答に時間的変化を見る
 折れ曲がる十代のことば

不思議なことに、初読の際に
感じたことを覚えていました。
当時、最も納得できたのが
「長くない外来語の長音」の章です。
平成に入り、パソコンが
身近なものとなってきた頃ですが、
「コンピュータ」と「コンピューター」、
どちらが正しい表記なのかということが
話題になっていたはずです。
語尾の長音を表記上省略するのが
流行ってきた時代であり、
おもしろく読んだ記憶があります。

筆者はそれを一般にいわれていたように
学術用語の問題として通り過ぎず、
実際の発音との関連や
日本語のアクセントとの関係から
考察しているのです。
「パーティー」は「パーティ」と
書かれることが多いのに対し、
「コーヒー」は「コーヒ」には
絶対にならないことなど、いくつもの
事例を挙げて検討しています。

「清少納言の「春はあけぼの」」も
当時おもしろく読んだ記憶があります。
「春はあけぼの」のあとに
「いとをかし」が省略されているという
常識に異を唱えているのです。
確かに高校時代、
「春はあけぼの」の現代語訳として
「春は夜明け(がいい)」と
教わっていました。

筆者はその点についても
多角的な考察を展開しています。
「いとをかし」省略説への疑問の根拠や
「僕はうなぎ」文型の構造との比較を
提示しながらの
わかりやすい解説が続きます。
そして80年代のベストセラー本
「桃尻語訳・枕草子」を引用して
締めくくります。

逆に、初読時
あまりよくわからなかったものに
「目立たないアクセントを目指す」が
あります。
外来語の平板アクセント化です。
本来、最初の一音にアクセントのある語
(頭高アクセント)が、
首都圏の若者を中心に、
語頭を低くして後は高いまま続ける
アクセント(平板アクセント)に
変わってきているというものです。
地方に住んでいるために
当時は実感がなかったのですが、
地方まですっかり浸透してしまった
今ならよくわかります。

筆者はそれを単に「流行」で片づけずに、
異なるアクセントによる
指し示す具体物の違いについても
考察しているのです。
一つの例として「パンツ」は
「昔からある男性用下着」と「ズボン」が
アクセントの位置によって
区別されていることを示しています。
なるほどと思います。

よく「日本語は難しい」といわれます
(外国人ではなく日本人にとって)。
でも、「難しい」からこそ
「おもしろい」のであることを、本書は
さりげなく語っているかのようです。
毎日当たり前のように使っていながら、
日本語にはまだまだ私たちの気づかない
不思議や魅力が
ぎっしり詰まっているのです。
「日本語はおもしろい」
ぜひご一読を。

※残念なことに絶版中。
 電子書籍化もされていません。
 重版・復刊を待つか、
 古書を探すしかありません。

(2024.5.6)

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