「少女地獄」(夢野久作)

「書簡体形式」「少女の自殺」「心理的サスペンス」

「少女地獄」(夢野久作)
(「少女地獄」)角川文庫

「少女地獄」角川文庫

妾が息を引き取りましたならば、
眼を閉じて、
口を塞ぎましたならば、
今まで妾が見たり聞いたり
致しました事実は皆、
あとかたもない
ウソとなりまして、
お二人の先生方は
安心して貞淑な、
お美しい奥様方と
平和な御家庭を守って…。
「何んでも無い」

お腹に赤ちゃんが
出来ていたのです。
それがこの頃になって、
思い出すタンビに心臓の下の方で
ビクリビクリと躍り出すのです。
この児が生まれたら
どうしましょう。
貴女にだけ白状して死にますわ。
許して下さい。
一生涯のお願い…。
「殺人リレー」

こうして貴方から女にして頂いた
御恩をお返し致します。
私はこうして、
すべてを清算しなければ、
モトの虚無に帰る事が
出来ないのです。
どうぞ火星の女の置土産、
黒焦少女の屍体を
お受け取り下さい。
私の肉体は永久に貴方の…。
「火星の女」

その衝撃の大きさに、
読み終えて身震いしてしまいます。
夢野久作の怪作「少女地獄」です。
三作からなる連作短編集の形ですが、
筋書きそのものには
繋がりはありません。
共通しているのは、
「書簡体形式」「少女の自殺」
「心理的サスペンス」の三点であり、
それがそのまま
味わいどころとなっているのです。

〔主要登場人物〕
①「何んでも無い」
臼杵
…語り手。臼杵耳鼻科の開業医。
姫草ユリ子
…虚妄癖のある少女
 (実年齢は二十歳を超えている)。
 臼杵耳鼻科に看護婦として雇われる。
 本名:堀ユミ子。
山内
…臼杵耳鼻科の看護婦。気が弱い。
白鷹秀麿
…K大耳鼻科助教授。
 かつてユリ子を雇っていたが解雇。
白鷹久美子
…秀麿の妻。ユリ子を可愛がる。
曼荼羅
…ユリ子が入院した病院の医師。
田宮
…特高課長。臼杵の隣人。
宇東三五郎
…東都日報支局主任。
 臼杵の中学の同窓。
②「殺人リレー」
友成トミ子
…バスの車掌(ガイド)。手紙の書き手。
山下智恵子
…トミ子の手紙の差出人。
 バスの車掌になりたいと考えている。
月川艶子
…バスの車掌。トミ子の小学校の同窓。
 亡くなる直前、トミ子に手紙を送る。
新高竜夫
…バスの運転手。艶子と同棲する。
③「火星の女」
ミス黒焦
…県立高校の物置小屋の火災現場から
 見つかった身元不明の焼死体。
森栖礼造
…県立高等女学校校長。教育熱心。
 独身を貫く。火災以降失踪。
渡部スミ子
…森栖の下宿のおかみ。
虎間トラ子
…県立高当女学校教諭。
小早川
…県立高等女学校教頭。
山口
…県立高等女学校教頭次席。
川村英明
…県立高等女学校教諭。学校の会計を
 一手に引き受けていた。
川村ハル
…英明の妻。
朝倉星雲
…彫塑家。森栖の銅像を制作した。
甘川歌枝
…高等女学校生徒。
 身長が高く運動センス抜群。
 「火星の女」と呼ばれる。
殿宮アイ子
…歌枝の親友。歌枝の希望通りに
 託された手紙を投函する。
殿宮愛四郎
…アイ子の父親。県の視学官。
 森栖と付き合いが深い。
殿宮トメ子
…アイ子の母。愛四郎の妻。
 病気療養中。旧姓:舞坂。
 県立女学校の卒業生。

本作品の味わいどころ①
読み手に強く迫る「書簡体形式」

三篇に共通している一つは、
その表現形態が
「書簡体形式」であることです。
「火星の女」のみ冒頭部が
新聞記事の形で進行しますが、
それ以外はすべて筋書きが
手紙によって綴られていきます。
書簡体形式であるため、
読み手にとっては、
自らに宛てられた手紙のように感じられ
物語が強く迫ってくるのです。

それぞれ冒頭部で
衝撃的な事象が提示され、
読み手の不安を煽ることから
始まっています。
「何んにも無い」では
姫草ユリ子の自殺が提示され、
「殺人リレー」では
殺人事件が起きたことが仄めかされ、
「火星の女」では謎の焼死体発見の
記事が示されるのです。
それらの真相は以降の文面によって、
少しずつ語られていくのです。
この巧妙な「書簡体形式」の罠にはまり、
読み手はもはや物語世界から
脱出不可能となるのです。

本作品の味わいどころ②
超最大級の衝撃度「少女の自殺」

加えて三篇に共通しているのは
「少女の自殺」が
扱われているということでしょう。
なぜ花も実もある少女が自らの命を
絶たなければならなかったのか?
読み進めていくと、
そうせざるを得ない、複雑な事情が
次から次へと現れてくるのです。
冒頭に提示されているにもかかわらず、
その結末における、
主人公である少女の「自殺」は、
最大級の衝撃度を持って、
再び読み手の前に
その全貌を現してくるのです。

本作品の味わいどころ③
興奮を呼ぶ「心理的サスペンス」

その経緯は、「心理的サスペンス」と
呼ぶべきものなのです。
徐々に徐々に、
少女の身に不可避の事象や力が現れ、
主人公の少女は、自らの死を
避けることが叶わなくなるのです。
中でも「火星の女」の少女の行動は
常軌を逸しているとともに、
ホラー的要素すら感じる
インパクトの大きさです。
自らを死に追いやるとともに、
相手の男性を
着実に破滅に追い込んでいるのです。
しかもそれは自らの死の後から
始まっているのです。
恐ろしい復讐劇です。

昭和11年に、すでにこのような作品が
生まれていたこともまた衝撃的です。
狂気の作家・夢野久作の
代表作の一つである本作品、
怖いもの見たさにご賞味ください。

※表紙が角川文庫キャンペーン時の
 手ぬぐいデザインであることが
 誠に残念です。
 米倉斉加年の装幀画が夢野久作の
 感性と合致していて
 素晴らしいのですが。
 角川文庫はなぜこのような
 センスの無い表紙で
 わざわざキャンペーンをするのか、
 まったく理解できません。

(2024.5.23)

〔青空文庫〕
「少女地獄」(夢野久作)

〔関連記事:夢野久作作品〕

〔夢野久作の本はいかがですか〕

created by Rinker
¥374 (2024/06/19 00:28:51時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥673 (2024/06/19 17:07:52時点 Amazon調べ-詳細)
JoeによるPixabayからの画像

【今日のさらにお薦め3作品】

【こんな本はいかがですか】

created by Rinker
¥554 (2024/06/19 17:07:53時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥673 (2024/06/19 10:03:37時点 Amazon調べ-詳細)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA