「お茶の葉」(H・S・ホワイトヘッド)

ホラー小説?いやいや、シンデレラ・ストーリー

「お茶の葉」
(H・S・ホワイトヘッド/荒俣宏訳)
(「ジャンビー」)国書刊行会

「ジャンビー」国書刊行会

「お茶の葉」
(H・S・ホワイトヘッド/荒俣宏訳)
(「百年文庫050 都」)ポプラ社

「百年文庫050 都」ポプラ社

欧州旅行に参加したアビーは、
ロンドンの小さな店で、
古いながらも魅力ある
ネックレスを値切って買い取る。
旅行後、そのネックレスを
身につけて出掛けたパーティで、
彼女は素敵な男性と出会う。
男性はそのネックレスを見て…。

世にも不思議な物語、
とでもいいましょうか、
ホラー小説を中心に創作活動を展開した
ヘンリー・セントクレア・
ホワイトヘッド
の短篇作品です。
でもホラーではありません。
心温まる「不思議な物語」なのです。

〔主要登場人物〕
アビー・タッカー

…高校教師。ヨーロッパ旅行のために
 倹約して積み立てをする。
 旅先で古びたネックレスを購入する。
ソフィア・グラニス
…アビーの同僚教師。
レベレット
…アビーが下宿のパーティで知り合った
 青年。宝石関係の仕事をしている。
ヘイ
…ボストンのマフィンズ宝石店の店員。
シュワルツ博士
…ニューヨークのドゥフェイン宝石店の
 世界的鑑定家。

本作品の味わいどころ①
何かが始まる予感、お茶の葉で占い

37歳独身女性が倹約してお金を貯めて
海外旅行に出かける。
ありふれた設定ですが、
当然何かが始まります。
その伏線として現れるのが彼女の趣味
(というよりも癖のようなもの)である
「お茶の葉占い」。
旅行に出てからたびたび現れる
「BOW」を表す予言と「4」と「7」の数字。
彼女はそれを「求婚者」と
「47歳」であると読み解くのです。
「47歳になったら求婚者が現れる」では
もう10年待たなくては
結婚できないことになるし、
「47歳の求婚者が現れる」では
ちょっとばかり年齢が高すぎです。
どちらにしても
あまりたいしたものではなさそう…、
なのですが、意外な方向へと
予感は彼女を導いていくのです。

本作品の味わいどころ②
恋愛が始まる予感、素敵な青年登場

旅行後のパーティで自分を「チラ見」する
青年レベレット登場。
「青年」だから当然アビーより年下。
これが「求婚者」か?
これなら幸せ間違いなし…なのですが、
レベレットが「チラ見」していたのは
アビーではなく
アビーの首のネックレス。
意外な方向へと
物語は展開していくのです。

本作品の味わいどころ③
幸せが始まる予感、驚きの査定額は

レベレットの進言にしたがって、
ボストンのマフィンズ宝石店へ、
そしてそこの店主の勧めで
ニューヨークのドゥフェイン宝石店へ、
アビーはネックレスを持参して
鑑定してもらうのですが…。
レベレット、ヘイ、シュワルツと
経るたびに鑑定額はうなぎ登り、
さて、驚きの査定額は?
ぜひ読んで確かめてください。

驚愕の事件が一段落すると、
彼女のお茶の葉占いは
またもや何かを予言します。
彼女が最後に占った
紅茶の葉の示したものは「L」の字。
レベレットの名前の綴りは
記されていないのですがおそらくは
「Leveret」でしょう。
最後の彼女の独り言が素敵です。
「わたし、あの人と結婚することに
 なるような気がするわ」

控えめで慎ましやかなアビーは、
前向きで堂々とした女性へと
変身しているのです。
爽やかな余韻を残して
物語は幕を閉じます。

サクセス・ストーリー、
いやシンデレラ・ストーリーに
ラブ・ロマンスを加えたような
甘い香りのする作品なのですが、
作者H・S・ホワイトヘッドの専門は
ホラー小説。
アメリカの恐怖小説専門誌
「ウィアード・テールズ」に、
土俗信仰に材をとったホラー作品を
いくつか発表しました。
そうした作品を集めた作品集
「ジャンビー」の最後に
収録されているのですが、
他の作品の雰囲気とは
もちろんまったく異なります。
「宝石」ですからホラーの方向へ
進むのかと思いましたが、いやいや、
立派な幸せ物語です。

ポプラ社「百年文庫」の編集者は
よくぞこのような作品を
見つけたものです。
ギッシングウォートンの作品と
組み合わさり、
一つのアンソロジーとして
融け合っています。
「ジャンビー」
現在絶版となっていますので、
「百年文庫050 都」でご賞味ください。

(2024.6.4)

〔国書刊行会「ジャンビー」〕
カリブ海の魔術―序にかえて
樹の人
カシアス
黒い獣
黒い恐怖
わな
ジャンビー
月時計
お茶の葉

〔「百年文庫050 都」〕
くすり指 ギッシング
お茶の葉 H.S.ホワイトヘッド
ローマ熱 ウォートン

〔百年文庫はいかがですか〕

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liushuquanによるPixabayからの画像

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