「江戸川乱歩全集第11巻 緑衣の鬼」(江戸川乱歩)

別物になりながらも魅力はパワーアップ

「江戸川乱歩全集第11巻 緑衣の鬼」
(江戸川乱歩)光文社文庫

「江戸川乱歩全集第11巻 緑衣の鬼」

前夜、怪しい「影」に襲われた
笹本夫妻を見舞いに来た折口は、
夫・静雄の遺体を発見する。
扉を破って
書斎へ入った折口だったが、
待ち受けていた賊に襲撃され、
昏倒する。
薄れゆく意識の中で捉えたのは、
緑色をした男の姿だった…。
「緑衣の鬼」

叔父が購入した屋敷は、
過去に起きた
忌まわしい事件のために
「幽霊塔」と呼ばれていた。
その屋敷の
下検分を命じられた「私」は、
そこで誰も知るはずのない
時計台のねじを巻いていた
不思議な美女と出会う。
彼女は一体何者なのか…。
「幽霊塔」

戦前の時代までは「翻案」という
文芸分野が確立していました。
海外作品を忠実に
(当然のことなのですが)
日本語訳するのが「翻訳」なら、
基本的な筋書きはそのままに、
そこに日本人作家のアレンジが
加えられるのが「翻案」、
つまり忠実ではない「翻訳」です。
光文社文庫「江戸川乱歩全集第11巻」に
収録された長篇作品二篇は、
まさにその海外ミステリの
江戸川乱歩版「翻案」作品なのです。

一作目の「緑衣の鬼」は、
イーデン・フィルポッツの代表作
「赤毛のレドメイン家」の翻案です。
といっても、筋書きの一部も
かなり改変されてあり、
「翻案」の範疇もかなり逸脱しています。
いいのです。乱歩ですから。
「赤毛」を日本で激賞したのが乱歩。
したがって本国イギリスよりも
日本のミステリ・ファンに
広く知られているという状態の
「赤毛」です。
乱歩が乗りに乗って書きまくったような
作品に仕上がっています。

以前本作品を取り上げたときには、
味わいどころ3点を
次のように記しました。
「削るところは削ってエンタメ特化」
「加えるところは加えてエンタメ特化」
「翻案を越えて乱歩作品へ進化」
つまりは翻案どころでなく、完璧に
乱歩作品へと変化しているのです。
登場人物の細かな感情は
さておいてエンタメ、
構成の緻密さはさておいてエンタメ、
トリックの意味づけも
さておいてエンタメ、
読者を愉しませ、興奮させるために、
ありとあらゆる装飾を
施しているのです。
全身緑色の「緑衣の鬼」など、
「怪人二十面相」「蜘蛛男」
「黄金仮面」「黒蜥蜴」と同列の怪人です。
完全にフィルポッツの「赤毛」とは
別作品となってしまっています。

二作目「幽霊塔」は複雑です。
正確には黒岩涙香「幽霊塔」のリライト
(今これをやれば「パクリ」と
言われかねない)なのですが、
その涙香「幽霊塔」は
A.M.ウィリアムスン
「灰色の女」を翻案したものなのです。
つまり海外作品を涙香が翻案
(それもかなり改変されている)し、
さらにそれを乱歩が
自分流にアレンジしたという、
結果としてやはり元作品とは
別物になっているという代物です。

こちらについては別物になりながらも
その魅力はパワーアップしています。
味わいどころは
次のように紹介しました。

「ヒロイン・秋子の怪しさが倍加」
涙香版以上に
ヒロインが窮地に立たされます。
すべての物的証拠や状況は、
秋子が犯人であることを
指し示しているのです。
果たして彼女の正体は?
本当に殺人者なのか?
そして財産を乗っ取ろうと企てる
希代の悪女なのか?
嫌らしいまでに
丹念にたたみかける筆致には、
乱歩特有の味わい深さが感じられます。

「舞台装置の怪しさが倍加」
本作品の舞台となる
時計塔・蜘蛛屋敷・怪西洋館、
すべてが怪しさを増しています。
怪人二十面相のアジトとしても
通用するような、
怪しげな構造を持っているのです。
特に涙香版では
魔術のような存在だった「整形術」が、
現代医学の最先端技術として
扱われることにより、
現実的な怪しさを帯びてきています。
科学的論拠と緻密な計算による
舞台の設定にも、やはり
乱歩特有の味わい深さが感じられます。

この「幽霊塔」は、あの宮崎駿が
幼少期にむさぼるようにして読み、
そのイメージをアニメ映画
「ルパン三世カリオストロの城」に
投影したことで有名です。

こうして見ると、やはり乱歩の
エンターテインメント性は
他の真似のできないものなのです。
古典ミステリを味わったことのない
現代のミステリ・ファンが読むと
噴飯する部分も多々あるのですが、
だからこその面白さに
溢れているのです。
心を昭和の少年時代に巻き戻し、
ぜひ乱歩の翻案作品の魅力を
堪能しましょう。

(2024.6.7)

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