まだまだ本を愛している人間がたくさんいる
「本は、これから」(池澤夏樹編)
岩波新書
ここに集められた文章全体の
傾向を要約すれば、
「それでも本は残るだろう」と
いうことになる。
あるいはそこに
「残ってほしい」や、
「残すべきだ」や、
「残すべく努力しよう」が
付け加わると考えても
よいかもしれない。
みんな本を愛して…。
「序 本の重さについて
池澤夏樹」
ここ十数年、
ネット書店が隆盛を極めています。
その一方で、人は本を買うときにも、
人との繋がりを求めてしまうのもまた
事実(だと思う)です。
本当はリアル書店で
あれこれ迷いながら、
「よしこれ!」と決めて、
心をときめかせてレジへ
小走りしたい(のだと思う)のです。
それが「本を買う」ということなのです。
そんな「本」と「人」との関わり方の
あれこれについて論じた一冊が
本書です。
37人の本に関わるプロが、
これからの本のあり方について書いた
コラム集です。
日本にはまだまだ本を愛している人間が
たくさんいるということがわかります。
〔本書の構成〕
本の重さについて 池澤夏樹
電子書籍時代 吉野朔実
本の棲み分け 池内了
発展する国の見分け方 池上彰
歩き続けるための読書 石川直樹
本を還すための砂漠 今福龍太
本屋をめざす若者へ 岩楯幸雄
書物という伝統工芸品 上野千鶴子
活字中毒患者は電子書籍で本を読むか? 内田樹
生きられた(自然としての)「本」
岡崎乾二郎
本を読む。ゆっくり読む。 長田弘
装丁と「書物の身体性」 桂川潤
半呪物としての本から、
呪物としての本へ 菊地成孔
電子書籍の彼方へ 紀田順一郎
実用書と、僕の考える書籍と 五味太郎
永遠の時を刻む生きた証 最相葉月
綴じる悦び閉じない夢想 四釜裕子
誰もすべての本を知らない 柴野京子
変わるもの、変わらないもの 鈴木敏夫
三度目の情報革命と本 外岡秀俊
私(たち)はなにをどう
売ってきたのだろうか 田口久美子
最悪のシナリオ 土屋俊
「追放本」てんまつ 出久根達郎
図書館は、これから 常世田良
地域に根づいた書店をめざして
永井伸和
電子書籍のもつ可能性 長尾真
和本リテラシーの回復のために
中野三敏
「買書家」の視点から 成毛眞
届く本、届かない本 南陀楼綾繁
電子書籍がやってくる 西垣通
出版という井戸を掘る 萩野正昭
「本ではない本」を発明する 谷川一
本と体 幅允孝
大量発話時代と本の幸せについて
原研哉
紙の本に囲まれて 福原義春
読前・読中・読後 松岡正剛
しなやかな紙の本で、スローな読書を
宮下志朗
「今時の装置は二〇年もすると
使えなくなり、(中略)ITが栄えて、
情報の記録が欠落していくのだ。
その点、紙に書かれた記録が
千年の歴史を
刻んでいることを思えば、
紙のたくましさとしぶとさを
感じざるを得ない。」
(「本の棲み分け」池内了)
確かに電子書籍は便利です。
しかし長いスパン、そして
個人ではなく国家・民族もしくは
広く人類全般に対して考えたとき、
電子データよりも紙(そして
紙よりも木簡、木簡よりも石版)の
ほうが長い年月に耐えうるのです。
「書庫は収集物の展示棚であり、
同時に将来の自分自身の
設計図でもあるのだ。
だから、もしもすべての本が
電子化されてしまうと、
おおいに困るのである。」
(「「買書家」の視点から」成毛眞)
本は「読む」だけでなく
「集める」という側面もある以上、
この意見ももっともだと感じます。
私自身も本を書棚に並べておきたい
人間ですのでよく分かります。
「書棚」はその人間の「履歴」であり
「顔」であり「性格」であり
「方向性」でもあるのですから。
「本を読むと言うことは、
読書を制作し、
編集するということなのである。
読書を制作編集することは、
読前・読中・読後におこる何かを
できるだけ捨てないということだ。」
(「読前・読中・読後」松岡正剛)
電子か紙かという問題よりも、
読書の本質とは
何かということについても
考えさせられました。
読書とは一見、受け身の作業のような
感覚がありますが、
実に能動的な活動であることに
気づかされます。
さて、私自身も
紙の本を愛する人間の一人なのですが、
その「紙の本」を売る書店自体が
激減しています。
私の住む市では
多くの書店が店をたたみました。
チェーン店も撤退しました。
リアル書店はほぼなくなりました。
片道30分の通勤路の途中に
書店は存在しません
(ブックオフはあるが)。
もはや本の購入は新刊ならAmazon、
中古本・古書はAmazon、ヤフオク、
「日本の古本屋」を活用、
ほぼネット購入です。
本は、これから、というよりも、
「書店は、これから」
どうなっていくのだろうと
心配せずにはいられません。
それはともかく、本について、
読書について、電子書籍について、
考える機会となる一冊です。
新書としてはやや鮮度が
落ちてはいますが(2010年出版)、
その価値は色褪せてはいません。
ぜひご賞味ください。
(2024.6.17)
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