「ルックバック」(藤本タツキ)

込められた意味を読み取る作業はきわめて「読書的」

「ルックバック」(藤本タツキ)集英社

「ルックバック」集英社

漫画に自信を持っていた藤野は、
不登校の京本の
画力の高さに驚愕する。
ひたすら漫画を
描き続ける藤野だったが、
やがて描くことを諦めてしまう。
小学校卒業の日、
初めて会った京本から
「ずっとファンだった」と
告げられた藤野は…。

こんな素敵な漫画が存在していたとは
驚きです。
従来の漫画を超えたところに
存在する漫画です。
すでに三年ほど前にネット公開され、
すぐさま話題に
なっていたようなのですが、
漫画に疎い私(でも週刊少年ジャンプは
読んでいる!)は
まったく気づきませんでした。

〔登場人物〕
藤野歩

…漫画を描くのが好きな女の子。
 自分の画力に
 絶対の自信を持っていたが、
 京本の画力に打ちのめされる。
 京本とともに「藤野キョウ」名で
 漫画を執筆しはじめる。
京本
…不登校の小学生。藤野の描く
 4コマ漫画に心酔している。
 中学・高校の6年間、
 藤野の漫画の背景を描く。

ネット上には本作品について、
映像作品とのオマージュ的関連、
作者自身の漫画愛、
モチーフとなった現代の事件との関連、
さらには台詞の一部修正に関する
経緯等さまざまな情報が溢れています。
そちらの方は
マニアの方々にお任せするとして、
私は「読書」という観点から
本作品の面白さについて
記してみたいと思います。

本作品の「読書」としての味わいどころ①
テキストではなく「画」が多くを語る構成

とかくテキスト(登場人物の台詞)の
多い漫画が多い昨今、
本作品ほど「画」で語る構成に
徹している漫画を、私は知りません
(私が見つけられないだけかも
しれませんが)。
台詞よりも「画」で、伝えるべきことを
読み手に伝えきっているのです。

例えば、京本から
「ずっとファンだった」と告げられた
藤野が、
漫画への自信と除熱を取り戻した様子が
P.43~47にかけて、
台詞なしの「画」のみで
的確に表現されていきます。
特にP.44~45の見開きすべてを使った
カットは秀逸です。
実は私はネット上の「少年ジャンプ+」
(P.47までが無料公開されていた)で、
このカットから強い衝撃を受け、
紙媒体のコミックスの購入を
決めたしだいです。

結末の9頁も、
まったく台詞のないまま、
物語に静かに幕を引いています。
それでいて、
押し寄せてくる感動はひとしおです。

本作品の「読書」としての味わいどころ②
画の直接描写以上に技法が表現する世界

しかもそれは、
「画」の直接的表現に留まりません。
漫画に詳しくない私には
よく分かりませんが、
技法的な要素が強く感じられます。
特に似たようなカットが
反復して提示される手法が、
時間の経過や人物の感情の変化、
行動の積み重ね等を、
より効果的に表現しているのです。

例えばP.14-15の
見開きに示された4コマは、
春夏秋冬の季節の変化だけでなく、
その間の藤野の修練の成果が
表現されています。
「藤野は一年間、黙々と画力を
上げるために練習していた」などと
野暮なテキストを付すよりは
はるかに多くのことを
読み手は受け取ることができるのです
(その意味では、4つの各コマの
右上に示されたカレンダーが
余計に感じられるくらい)。

本作品の「読書」としての味わいどころ③
全篇を貫くテーマの一つとしての「背中」

「ルックバック」というタイトル自体が
「後ろを見る」、
つまり背中を見ることを
意味しているのですが、
作品の随所に「背中」が現れます。
カバー装幀画をはじめとして藤野、
そして京本の後ろ姿が
幾たびも現れます。
初めて会った藤野に
サインを書いてもらうのは「どんぶぐ」
(秋田ではそういうのですが、山形でも
そういうのかどうか…)の背中。
「私の背中を見て成長するんだな」と、
京本を導こうとする藤野、
それでいて画力については必死で京本の
背中に追いつこうとしている藤野。
終盤に現れる4コマもタイトルは
「背中を見て」。
そこに込められた意味を読み取る作業は
きわめて「読書的」です。

これまで漫画など
「娯楽」であって「読書」とはいえないと
考えていましたが、本作品はまさに
「繰り返し読み味わう作品」であり、
現代作家のベストセラー本などは
比較にならないほど、
「読み取る力」を要求される
漫画となっているのです。
普段漫画を読まない方にこそ
お薦めしたい逸品です。
ぜひご賞味ください。

(2024.6.20)

〔映画公開〕
まもなく映画が公開するのでした
(6月28日公開)。
映画にも疎い私は、本書を買って
読むまで知りませんでした。
仕事を早引けして
映画館に行きたいと思います。

劇場アニメ「ルックバック」本予告

〔映画を観てきました〕
仕事を早引けして、
公開初日に映画を観てきました。
素晴らしかったです。
原作漫画の良さがさ
らによくわかりました。
入場者特典の
オリジナル・ストーリ・ボードを
もらうことができました。
そちらも素敵です。

オリジナル・ストーリ・ボード

(2024.6.28)

〔藤本タツキといえばチェンソーマン〕

〔藤本タツキの漫画はいかが〕

HeatherによるPixabayからの画像

【今日のさらにお薦め3作品】

【こんな本はいかがですか】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA