「奇岩城」(ルブラン)

高校生探偵ボートルレの冒険と挫折

「奇岩城」(ルブラン/堀口大學訳)
 新潮文庫

ルーベンスの油絵を盗もうとした
窃盗団は、
まんまと逃げおおせる。
捜査にあたった予審判事は
何も手がかりを
つかむことができなかった。
しかし、現場に現れた
高校生ボートルレは、
次々に謎を解いていく。
そして事件の首謀者は…。

ルブランによる
ルパン・シリーズの長篇作品です。
これまで取り上げてきた
「813」「続813」「水晶栓」
ルパンの視点もしくは
ルパンに近い視点から描かれていて、
謎解きというよりは
「ルパンの大冒険」といった
趣がありましたが、本作品は違います。
探偵(役)側からの視点で、
ルパンの仕掛けた謎を解く
しくみとなっているのです。

〔主要登場人物〕
イジドール・ボートルレ

…ホームズの好敵手との評判が立つ
 高校生。事件の解決を目指す。
ド・ジェーブル伯
…フランスの富豪。
 ルーベンスの油絵を盗まれる。
レイモンド・ド・サン-ベラン
…ド・ジェーブル伯の娘。
 窃盗団の一人を撃つ。誘拐される。
ジュザンヌ
…ド・ジェーブル伯の姪。
ジョン・ダバル
…ド・ジェーブル伯の秘書。
 刺殺される。
ビクトールアルベール
…ド・ジェーブル伯の使用人。
ドラットル博士
…医学博士。
 誘拐され、ある人物の手術にあたる。
シャルレ
…研ぎ屋の爺さん。
ルイ・バルメラ
…ボートルレの父親が拉致されている
 らしいエギュイ城の持ち主。城は
 アンフレディ男爵に貸し出していた。
 ボートルレとともに、
 彼の父親とレイモンドを救出する。
マシバシ
…歴史・文学学士院会員。
 エギュイ・クルーズの研究者。
ド・ベリーヌ男爵
…「エギュイ・クルーズの秘密」の一冊を
 所有していた。
フィーユル
…予審判事。事件捜査にあたる。
ガニマール警部
…フランス警察警部。
フォランファン刑事
…フランス警察刑事。
シャーロック・ホームズ
…イギリスの私立探偵。
「私」…物語中盤における語り手。

本作品の味わいどころ①
高校生探偵ボートルレの冒険と挫折

これまで取り上げた3作品は、
困難に負けないルパン像が描かれ、
主役であるルパンが大いに
その存在感を発揮していたのですが、
本作品の主人公はなんと高校生。
ホームズの好敵手との評判を
(校内で)得ている
イジドール・ボートルレ。
「奇岩城」という表題とともに
ジュヴナイル感全開の
作品世界となっているのです。

それがまたおもしろいのです。
事件担当のフィーユル予審判事や
ガニマール警部が
無能ぶりを発揮する中、事件の謎を
次々と解き明かしていくのです。
ボートルレとルパンの知恵比べは、
高校生探偵の勝利に見える場面が
何度か現れます。しかし…、
そのあとにはすぐどんでん返しがあり、
ルパンの方が一枚も二枚も
上手であることが明らかになるのです。
当然です。
財力も人材も人生経験も豊富であり、
完璧に大人と子供の勝負なのですから。
でも、その大人のルパンが
ムキになっているあたりが
高校生ながらもボートルレの
名探偵ぶりを感じさせます。

本作品の味わいどころ②
名探偵ホームズ登場でも目立たない

さらに本作品では、
あの名探偵シャーロック・ホームズも
登場します。
もっともルブランが
ホームズを登場させたのは
本作品が初めてではなく、
むしろ最後の登場作(第四作)なのです
(第一作
「遅かったりシャーロック・ホームズ」、
第二作「金髪婦人」、
第三作「ユダヤランプ」)。

ところがこのホームズが
一向に目立ちません。
登場するかと思えば
ルパン一味に誘拐され、
終盤に間に合ったかと思えば
ルパンに向けて発砲した銃弾が
女性を撃ち抜き、
ルパンの逆襲に何もできず、
ルパンをみすみす逃がしてしまうという
体たらくなのです
(これではドイルが怒るでしょう)。
仕方ありません。
これはルパン・シリーズなのですから。
ホームズ本人と考えずに、
ホームズを想起させる
探偵役と捉えるべきでしょう
(実際、原文は
シャーロック・ホームズではなく
エルロック・ショルメとなっている)。

本作品の味わいどころ③
スケールは広がりついに歴史ロマン

そして、物語のスケールは
読み進めるにつれて
次第に大きくなっていきます。
はじめは盗難なしの殺人事件でしたが、
ルーベンスの油絵が
実は盗まれていたことが判明、
最後には歴代フランス国王にまつわる
秘密が現れてくるのです。しかも
史実を巧みに織り交ぜてあるため、
発表当時のヨーロッパの読者たちは
さぞかし興奮したであろうことが
推察できます。

「水晶栓」では
失態続きだったルパンですが、
本作品ではスーパー・スターとして
縦横無尽の活躍を見せつけます。
やはりルパン・シリーズは面白い!
TV「ルパン三世」は見ているものの
活字でのルパン・シリーズを
まだ読んでいない方、
ぜひご賞味ください。

(2024.6.28)

〔新潮文庫のルパンシリーズ〕
前述したように、
堀口大學訳はいささか古びたものと
なってしまいましたが、
新潮文庫は貴重です。
「ルパン傑作集」と題された全10巻、
いかがでしょうか。
「ルパン傑作集Ⅰ 813」
「ルパン傑作集Ⅱ 続813」
「ルパン傑作集Ⅲ 奇岩城」
「ルパン傑作集Ⅳ 強盗紳士」
「ルパン傑作集Ⅴ ルパン対ホームズ」
「ルパン傑作集Ⅵ 水晶栓」
「ルパン傑作集Ⅶ バーネット探偵社」
「ルパン傑作集Ⅷ 八点鐘」
「ルパン傑作集Ⅸ ルパンの告白」
「ルパン傑作集Ⅹ 棺桶島」
ルパンの事件の時系列に
なっていないところが残念です。

〔ポプラ社のルパンシリーズ〕
懐かしいシリーズが、
ポプラ社の南洋一郎訳です。
こちらは正確な翻訳ではなく、
翻案と呼ぶべきものです。

〔関連記事:海外ミステリ〕

Guren-The-ThirdeyeによるPixabayからの画像

【今日のさらにお薦め3作品】

【こんな本はいかがですか】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA