「働くということ」(黒井千次)

何となくわかってきました。「働く」ということが。

「働くということ」(黒井千次)
 講談社現代新書

「働くということ」講談社現代新書

こうしていつの間にか、
「労働」はぼくにとっての
文学の主題となり、
小説の出発点となった。
あまりにも漠として
捉え難い現代を掴むための
貴重な手がかりを、
そこに見出したのだとも
いえるだろう。
働くということは
生きるという…。

あと数年で退職を迎える私ですが、
勤続36年になるにもかかわらず、
いまだに「働くって何?」という疑問を
抱えたまま生活しています。
何分にも超ブラックといわれる教職員。
一頃は一ヶ月の残業時間が
200時間を越えるときもあり、
「自分はいったい何のために
働いているのか」、いや、
「自分はいったい何をしているのか」、
という思いに駆られてばかりいました。
作家・黒井千次氏の著した
本書を読んで、
何となくわかってきました。
「働く」ということが。

〔本書の構成〕
はじめに
1 秋の不安~就職試験の季節
2 春の戸惑い~入社した頃
3 仕事との最初の出会い
4 仕事が自分の中に入るまで
5 働くことはなぜ面白くないか
6 人は金のみのために働くのか
7 働くことの核心にあるのはなにか
8 会社員は職業か
9 企業意識と職業意識
10 働くことと学ぶこと
11 外側から見た企業
12 働く場での人と人との結びつき
13 働くということの発見
  ~企業での十五年を振り返って
あとがき
※詳しくはこちらから(講談社HP)

本書を読んで新しく気づいたこと、
というよりも、
36年刊働き続けていて私自身の心に
断片的に積み重なっていたものが
本書によって一つに統合されたという
思いでいっぱいです。
大きな点三つを挙げてみます。

「働くということ」①
基本的に「働くこと」は面白くない

本書第5章
「働くことはなぜ面白くないか」には、
就職することの「三悪」が記されていて、
納得しました。
「サラリーマンの三悪は、
 目覚まし時計と、ネクタイと、
 満員電車だ」

一文に象徴されるように、
就職することによって人は、
「時間」が制限され、
「服装」が規定され、
「一定の行為の反復」を求められる生活が
四十年近く続くのです。
それらの犠牲に見あうだけのものを
受け取ることができるのか?
以降の章で、
筆者は一つ一つ検証しています。

「働くということ」②
会社人と職業人は似て非なるもの

すると問題はやはり
「人は何のために働くのか?」という
疑問に行き着くのです。
私たちも実感しているように、
筆者もまた「金のために働く」のでは
人生があまりにも味気ないということを
説いています。
その上で、ソルジェニーツィンの
「イワン・デニーソヴィ値の一日」で
描かれている強制労働や、
小関智弘氏の「粋な旋盤工」での
ものづくりの現場の例を挙げ、
仕事の中に「自己表現」を見出す
喜びについて論じています。

そしてその
「自己表現」を見出し得た人間が
「職業人」であり、
上からの指図を唯々諾々と聞き、
それを実行するだけの人間は
「会社人」にすぎないと
筆者は解き明かします。
「「会社員」は会社の中で
 なんとかして自分の職業を探すべく
 務めねばならない。
 職業は名刺の肩書きの上に
 のっているのではない。
 部屋のドアに
 書かれているのでもない。
 日々の具体的な仕事の中にしか
 ありようはないのである。
 その時現在の仕事のうちに
 職業を求めるべきだろう」

その一節は、私の心にも
深く突き刺さってきました。

「働くということ」③
真の自由は「労働」の中にこそある

その上で、「仕事」と「趣味」を切り離し、
「趣味」に生きがいを見出そうとする
生き方をやんわりと否定しています。
「「仕事」がつまらないから
 「趣味」に生きがいを見出そうと
 考えるのであれば、
 それはあまりに逃避的であり、
 もしそれが可能であると
 信ずるとしたら、
 あまりに楽観的に過ぎると
 いわねばならない」

そして「労働」の中にこそ
真の自由があると説きます。

では、最終的に「働くとは何か?」
筆者はここまで
いくつもの具体的な手がかりを提示し、
その上で読み手に問いかけます。
「働くということは
 生きるということであり、
 生きるとは、結局、
 人間とはなにかを
 考え続けることに他ならない」

その最後の一文が、
単なる解答の放棄ではないことは、
本書を読了すればわかることです。
本書は、
社会学者が世の中を俯瞰して
一般論を述べたものではなく、
経営者が自らの経営哲学を
正当化しようとしたものでもなく、
ましてや企業を引退した
老人の回顧録でもありません。
会社に身を置き、「労働」を体験し、
「労働」とはなにか考察を重ねてきた
筆者がたどり着いた
「労働観」の集大成なのです。

出版が1982年であり、
40年以上も経っています。
ともすれば「昭和の時代の労働感だろ」と
敬遠される可能性もありますが、
内容は決して古びてはいません。
むしろ「労働」と「遊び」を
明確に区別しようとする
現代の若者こそ
読むべき価値のあるものなのです。
色褪せていない証拠に、
2024年6月現在で、まだ正規の
流通ルートに乗っているだけでなく、
2019年には漫画版も登場しています
(「漫画 働くということ」池田邦彦著)。

働くことに
新たな目標と喜びが見いだせます。
本書の深い味わいを、
ぜひ堪能してください。

(2024.7.8)

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