「友田と松永の話」(谷崎潤一郎)

重ならない、変身する、固定される、二人

「友田と松永の話」(谷崎潤一郎)
(「潤一郎ラビリンスⅩ」)中公文庫

小説家である「私」は、
見知らぬ女性から
一通の手紙を受け取る。
その女性は、たびたび家出し、
行方知れずとなった夫を
探しているのだという。
かつて夫の持ち物を調べた折、
「私」から友田なる人物に宛てた
手紙が出て来たのだと…。

「分身物語」と副題のついた
谷崎潤一郎の作品集
「潤一郎ラビリンスⅩ」。
これまで「金と銀」「AとBの話」を
取り上げましたが、
本作品が最後の収録作となります。
これまでの二篇が、善と悪、
もしくは光と影といった
二人の人物の二重性について描かれた
二作でしたが、
本作品はそれらとは異なります。
読み進めると早々と見えてくるのですが
友田と松永は同一人物なのです。

〔主要登場人物〕
「私」

…小説家。見知らぬ女性から
 夫についての情報を尋ねる
 手紙を受け取る。作中では
 F・Kなるイニシャルが登場する。
松永しげ
…「私」に手紙をしたためた女性。
 夫がたびたび家出し、
 行方知れずとなる。
松永妙子
…しげの娘。
松永儀助
…しげの夫。たびたび家出する。
 痩せ型で淡泊、神経衰弱の傾向あり。
 日本文化を好む。
友田銀蔵
…「私」の飲み友だち。
 その素性は「私」も知らない。
 肥満型で大食い、色を好む。
 日本文化を嫌い西洋文化に傾倒する。
キャザリンローザ
エドナフローラ
…友田の経営する娼窟の女たち。

本作品の味わいどころ①
友田と松永、重ならない二人

差出人のしげは、
夫・松永儀助と友田銀蔵なる男が
同一人物ではないかと
推測しているのです。
「私」もまた、朝永と友田が
同一時期に存在しない事実に気づき、
同一人物である可能性を考えるのです。

しかし松永の写真は
友田とは全く異なります。
松永は痩せ型で淡泊、
神経衰弱の傾向あり。
友田は肥満型で大食い、
色を好む濃厚なタイプです。
重なる部分があるどころか、
まったくの正反対の気質であり
体型なのです。
そこにどのような謎が
隠されているのか?
その「重ならない二人」を
読み解くことこそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。

本作品の味わいどころ②
友田と松永、変身する二人

で、やはり同一人物であることが
判明するのです。
ちなみに本作品は
ホラー作品ではありません。
したがって謎解きの要素もなく(だから
小出しにその事実を匂わせている)、
ミステリアスな展開もありません。
「金と銀」「AとBの話」での二つの人格が、
一つの肉体に宿っているという
ことなのです。
ほぼ四年おきに二つの人格が
交代するという事実よりも、
その二つの人格がそれぞれ
何を表しているのかを考えることこそ、
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。

本作品の味わいどころ➂
友田と松永、固定される二人

「金と銀」では、善と悪の二つの人間の
人格が一つに収束していきましたが、
こちらは友田と松永の
どちらかで固定されるであろうことが、
最後の場面での松永(=友田)から
「私」に宛てた書簡の中で語られます。
どちらに固定されることを
仄めかしているのか?
それはぜひ読んで確かめてください。
それは作者・谷崎自身の描く
世界観の変化とも重なります。
それこそが本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。

やはり谷崎の作品は
一筋縄ではいきません。
「金と銀」「AとBの話」そして
本作品「友田と松永の話」の順で
ご賞味ください。

(2024.8.1)

〔「潤一郎ラビリンスⅩ 分身物語」〕
金と銀
AとBの話
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