実行に移される爆弾テロ、その結果は?
「爆弾の運命」(バー/田中鼎訳)
(「ヴァルモンの功績」)創元推理文庫
吾輩はフランス政府に
免職された。無実の人間を
逮捕したからではない。
それしきのこと
何十回もあったが、
お咎めはなかった。
間違った手掛かりを
追いかけたからでも
事件解決に
失敗したからでもない。
吾輩の地位は小揺るぎも…。
ホームズのライヴァルたちが
ひしめき合った19世紀後半。
異色ぞろいの探偵たちの中で
とりわけ異色なのが
このバーの創り上げた
探偵ヴァルモンではないでしょうか。
これまで「放心家組合」
「〈ダイヤの頸飾り〉事件」を
取り上げてきました。
ホームズに匹敵する能力を持ち、
ホームズを超える自信家である
ヴァルモン。
しかし唯一の違いは「失敗すること」。
前述した二作品では
完璧なまでに失敗しましたが、
本作品ではどうなのでしょう。
〔主要登場人物〕
ウジューヌ・ヴァルモン
…元フランス国家警察刑事局長。
フランス警察を免職され、
英国に渡り私立探偵となる。
ポール・ドゥシャーム
…フランス在住のイギリス人。
暗躍する。正体はヴァルモン。
ジョン・ウィルキンズ
…青年紳士。正体はドゥシャーム、
つまりヴァルモン。
アンリ・ブリッソン
…ヴァルモンのかつての部下。故人。
W.レイモンド・ホワイト
…大貿易商。
ヴァルモンの後ろ盾となる。
アドルフ・シマール
…元フランス情報部員。
現在はテロ集団の一員。
シニョーレ・フェリーニ
…イタリア人テロリスト。
スタンディシュ警部
…ロンドン市警警部。
本作品の味わいどころ①
生命を賭けた危険な任務、その成否は?
ダイヤの頸飾り事件での手痛い失敗。
しかしそれはまだ笑って済ませられる
問題です。
でも今回ヴァルモンが挑むのは
無政府主義者たちが集まる
テロ組織への潜入捜査。
身分がバレれば消されるのは必至。
つまり失敗すれば命を失うのです。
笑っている場合ではありません。
ヴァルモン自身が自信満々なだけに、
読み手はヒヤヒヤの
し通しとなるのです。
危険な任務は果たして成功するのか、
それとも失敗に終わるのか?
それが本作品の
第一の味わいどころなのです。
本作品の味わいどころ②
潜入先にかつての部下が、その行方は?
正体がバレれば消されます。
でも、そのテロ組織の中に、
かつてのヴァルモンの部下がいて、
変装して加わっているヴァルモンを
じろじろ見始める。
それがアドルフ・シマールなのです。
シマールもまた潜入捜査か?
そう思って読み進めると、
なんと彼は見も心もテロ組織に
どっぷりと染まっていることが判明。
ヴァルモンがシマールに気づいたなら、
シマールもまた
ヴァルモンに気づくはず。
どうするヴァルモン。
潜入捜査の行方はいかに?
それが本作品の
第二の味わいどころとなるのです。
本作品の味わいどころ➂
実行に移される爆弾テロ、その結果は?
そのシマールが爆弾テロの実行犯、
ヴァルモンはその逃走経路の確保係を
任命されるのですが…。
ヴァルモンはいかにして
シマールに気づかれずに
爆弾テロを阻止するのか?
ヴァルモンの放つ奇手が
見事に炸裂(文字どおり)します。
それこそが本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
というわけで、終わってみると、
なんとすべて
丸く収まっているという結末。
ハラハラドキドキの連続でしたが、
それこそ作者バーの仕掛けた罠に、
見事にはまった証拠です。
ウジェーヌ・ヴァルモンも
ただ者ではないのですが、
作者ロバート・バーもまた超一級の
ストーリー・テラーであることが
分かります。
加えて田中鼎なる訳者の訳文も
ユーモア全開、
全篇にそこはかとなく漂う「明治感」。
上質のジョークにも似た
田中鼎の遊び心一杯の訳文もまた、
とくとご賞味ください。
(2024.8.9)
〔「ヴァルモンの功績」ロバート・バー〕
〈ダイヤの頸飾り〉事件
爆弾の運命
手掛かりは銀の匙
チゼルリッグ卿の遺産
放心家組合
内反足の幽霊
ワイオミング・エドの釈放
レディ・アリシアのエメラルド
シャーロー・コームズの冒険
第二の分け前
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