「まともな働き方」を考える第一歩として
「就職とは何か」(森岡孝二)岩波新書
就職環境が悪化し、
学生が弱い立場に置かれた。
本書の課題は、
学生の就職活動はいま
どうなっているかという問いに、
雇用の現場は
どうなっているかという
問いを重ね、
就職とは何かを考え、
まともな働き方の条件を
述べることに…。
2024年現在、日本の雇用市場は
人手不足から「売り手市場」となり、
企業による大学新卒者の奪い合いの
状況となっています
(もっとも業種により
求人倍率が大きく異なるため、
一概に「売り手市場」とはいえないが)。
かつての「超就職氷河期」の時代とは
隔世の感があります。
本書の刊行は2011年。
氷河期の終わりの兆しが
見え始めたものの、
東日本大震災の影響により、
日本経済が大きなダメージを受け、
採用の手控えが起ころうとしていた
時期です。
現在とは状況が異なるものの、
書かれてあることは
2024年にも十分当てはまり、
参考になることばかりです。
表題「就職とは何か」以上に、
副題である
「〈まともな働き方〉の条件」の方が、
本書の要旨を
すっきり表していると考えられます。
〔本書の構成〕
はじめに
第1章 就職氷河期から新氷河期へ
第2章 就活ビジネスと
ルールなき新卒採用
第3章 雇われて働くということ
第4章 時間に縛られて働くということ
第5章 就職に求められる力と働き方
終章 〈まともな働き方〉を
実現するために
あとがき/主要参考文献
本書の味わいどころ①
現在と重なる厳しい労働環境の現実
本書には、厳しい現実(2011年段階)の
労働環境が克明に紹介されています。
現在では「働き方改革」の名の下に、
改善されている要素も多々ある一方、
根本的には
いまだ解決されていないものも
少なくないはずです。
特に長時間労働の問題は
その最たるものでしょう。
著者は、
データをもとにして実態を解説し、
その根本的な原因を深く掘り下げ、
問題がどこにあるのか
明快に指摘しています。
私たちは、他業種のことは
あまりよくわからないまま
過ごしてきているのですが、
非正規雇用の問題や、
残業を前提とした就業規則、
賃金体系など、
大学生や若者だけでなく、
働く私たち全員が知っておくべきことが
わかりやすく記されています。
本書の味わいどころ②
労働知識を身につけることの重要性
そして著者は、
労働知識を身につけることの
重要性を説いています。
就職後に賢くいきいき働くために必要な
四つの力を
「社会常識」「基礎知識」
「専門知識」「労働知識」と定義し、
とくに「労働知識」
(これは教育機関でも企業の研修でも
取り上げられることがない)の重要性を
指摘しています。
例えば「賃金」の問題。
「基本給」なるものは
どこからどこまでが入っているのか。
2024年現在でも、「基本給」について、
法律上の明確な定めは
存在していません。
若者たちはこうした知識が
十分でない状態のまま、
就職活動を余儀なくされているのです。
まずは私たち働く大人が
そうしたことに敏感になる必要が
あることを教えられました。
本書の味わいどころ③
「まともな働き方」への具体的な提言
その上で、「まともな働き方」とは何か、
「まともな労働時間」「まともな賃金」
「まともな雇用」「まともな社会保障」の
四つに分け、解説しています。
なぜ「まともな働き方」ができないのか、
そしてどうすれば「まともな働き方」が
実現できるのか、
やはり若者たちだけでなく、
むしろ現在働いている私たちが
真正面から向き合うべき問題と
その対処の仕方について
わかりやすく述べているのです。
中でもワークシェアリングや
労働時間の短縮など、
具体的な解決策が示されている点は
貴重です。
もちろん、
書かれてあることは「理想状態」が多く、
現実との距離は大きいのは確かです。
しかし、ここから問題意識を高め、
現在働いている私たちが
その問題の解決に向けて
動き始めるための
第一歩となる良書です。
13年前の刊行とはいえ、
賞味期限が切れているなどということは
ありません。
大学生をはじめとする
若者に向けて書かれた本ですが、
高校生にもぜひ読んで欲しい一冊です。
就職に向けての意識や考え方が
変わるはずです。
(2024.8.19)
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