「予告殺人」(クリスティ)

見えてくる犯人像、しかし最後に…

「予告殺人」(クリスティ/田村隆一訳)
 ハヤカワ文庫

「殺人お知らせ申し上げます。
10月29日、午後6時30分より」。
奇妙な新聞広告に引き寄せられて
ブラックロック邸へ
集まった人々。
当初悪戯かパーティの余興と
思われていたが、その時刻、
部屋の電気が突然消え、
銃声が響き渡る…。

アガサ・クリスティーによる
ミス・マープルシリーズ
第4作目にあたります。
怪盗による犯行予告は
ジュヴナイル探偵ものには
つきものですが、
こちらは何と殺人予告。
新聞の広告欄にそのようなものが
掲載されれば、
誰しも「何の冗談か?」と訝しがるか、
「新手のパーティか?」と珍しがるか、
するに違いありません。
舞台となるリトル・パドックス
(ブラックロック邸)に集まった面々も
そうでした。
そこで起きる銃撃事件。
しかし死んでいたのはその強盗犯。
そこから始まる展開に、
頁をめくる手を止められませんでした。

〔主要登場人物〕
※捜査関係者
ジェーン・マープル
…探偵好きな独身の老婦人。
 メデナム・ウェルズ滞在中、
 事件の捜査協力を依頼される。
ダーモット・クラドック
…ミドルシャー警察捜査課警部。
 捜査にあたる。
ジョージ・ライデスデール
…ミドルシャー警察署長。
ヘンリー・クリザリング
…前ロンドン警視庁警視総監。
※レティシア襲撃事件関係者
レティシア・ブラックロック
…リトル・パドックスの女主人。
 殺人広告通りに銃撃される。
ドラ・バンナー
…レティシアと同居している女性。
 レティシアの旧友。毒殺される。
パトリック・シモンズ
…レティシアの従弟。同居中。
ジュリア・シモンズ
…レティシアの従妹。同居中。
フィリッパ・ヘイムズ
…同居人。美人。
ミッチー
…グラックロック家のメイド。
イースター・ブルック大佐
…退役軍人。心理学者。
ローラ・イースターブルック
…大佐の妻。
ヒンチクリフ
…養鶏業者。
マーガロイド
…養鶏業者。殺害される。
エドマンド・スウェッテナム
…文学青年。フィリッパに心を寄せる。
スウェッテナム夫人
…エドマンドの母。
ハーモン夫人(ダイアナ・ハーモン)
…牧師ジュリアン・ハーモンの妻。
 愛称はバンチ。
ルディー・シャーツ
…現れた強盗。素行の悪いスイス人。
 銃撃後、その銃で自殺か事故死する。
※その他の関係者
マーナ・ハリス
…ルディーの恋人。
ジュリアン・ハーモン
…牧師。
ランダル・ゲドラー
…かつてレティシアを秘書として
 雇っていた人物。財界の大物。
ゲドラー夫人
…ランダルの妻。余命わずか。
ソニア・ゲドラー
…ランダルの妹。行方不明。
ドミトリー・スタンフォーディス
…ソニアの夫。詐欺師。
ピップエンマ
…ソニアの子ども二人。

本作品の味わいどころ①
実際に起きた銃撃、死んだ犯人の謎

ミステリですから、
予告があれば必ず事件が起こる。
いったい誰が殺害されるのか?
そう思って読み進めると、
なんと死んでいたのは強盗犯。
自殺もしくは
転倒した拍子に銃が暴発した事故死。
警察はそう判断するのですが、
当然そこから真の事件が始まるのです。

真犯人はほかにいる。となれば、
銃撃されたレティシアが
再び命を狙われるのは必定。
いったい誰が何のために?
取り調べの場面が続きますが、
参加者の供述には
微妙なずれが見られます。
誰が嘘をついているのか?
そして次に
レティシアが襲われるのはいつなのか?
ワクワクしながら
読み進めることになります。
この一風変わった殺人予告、
そして強盗犯が殺害されている謎を、
まずはじっくり味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
背景に見え隠れする莫大な遺産相続

なぜレティシアが命を狙われるのか?
その謎が次第に明かされていきます。
彼女がかつて秘書を務めていた
富豪ゲドラーの遺産。
ゲドラー夫人が亡くなれば、
それはレティシアに譲られることが
明らかになるのです。
しかし夫人よりも先に
レティシアが死んだ場合、
その遺産はゲドラーの妹ソニアの子ども
ピップとエンマへと
受け渡されるのです。
夫人の命は風前の灯火。
であれば、ピップとエンマにとっては、
レティシアが夫人よりも
先に死ぬ必要があったのです。
二人はしかし行方知れず。
関係者の中にピップとエンマが
名前を変えて潜んでいるかもしれない!
やはりワクワクしながら
読み進めることになるのです。
この複雑な遺産相続の行方と、
相続人二人の正体の推理を、
次にしっかり味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
見えてきた犯人像、しかし最後に…

終盤近くなると、ピップとエンマが
成りすましている人物が見えてきます。
いよいよ事件は決着か!
そう思っているうちに、
最後の大どんでん返しが現れます。
それこそが本作品の肝であり、
最大の味わいどころと
なっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

それにしてもクリスティのミステリは
本当に面白い。
まだまだ未読作品が90以上あります。
長い人生、クリスティがあれば、
退屈することはないでしょう。
ぜひご一読ください。
できれば今月29日に。

(2024.10.18)

〔関連記事:クリスティ作品〕

〔ミス・マープル・シリーズ〕

created by Rinker
¥495 (2024/11/07 17:35:03時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥517 (2024/11/07 20:28:31時点 Amazon調べ-詳細)
Larry WhiteによるPixabayからの画像

【今日のさらにお薦め3作品】

「レサカにて戦死」他
「ローマ熱」
「安全マッチ」

【こんな本はいかがですか】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA