「夜光人間」(江戸川乱歩)

王道回帰へ、美術品を盗み出す二十面相

「夜光人間」(江戸川乱歩)ポプラ社

「夜光人間」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩全集第21巻」)光文社文庫

全身が銀色に光り、燃えるような
真っ赤な目と口を持つ
怪人・夜光人間。
東京に現れたその怪人は、
人々を驚かすだけでなく、
ついには高価な古美術品を
狙い始める。小林少年が
警護にあたっている中、
姿を見せた夜光人間は
まんまと…。

江戸川乱歩
少年探偵団シリーズの一作です。
全身が暗闇で光る夜光人間。
正体をばらしても
何ら問題ないはずです。
もちろんおなじみ怪人二十面相。
前作まで二十面相のコスプレが
やや沈滞気味だったのですが、
今回の夜光人間はド派手です。

【少年探偵団事件ファイル23】
「夜光人間」事件
〔事件発生場所〕

東京都世田谷区
…夜光人間、少年探偵団の
 肝試し会の最中、姿を現す。
東京都世田谷区杉本邸
…夜光人間、
 杉本支所蔵の推古仏を盗み出す。
東京都文京区明智探偵事務所
…夜光人間、明智探偵事務所で
 留守番中のマユミ助手に
 次の犯行を予告する。
東京都港区赤森邸
…夜光人間、赤森氏所蔵の
 白玉の仏像五体を盗み出す。
東京都渋谷区
…夜光人間、
 アジトにて明智小五郎と対決。
東京都港区上山邸
…夜光人間、上山氏所蔵の
 翡翠の五重塔を盗み出す。
 夜光人間、地下防空壕にて
 明智小五郎と最後の対決。
〔事件関係者〕
夜光人間
…夜、全身が発光する怪人。
 美術品を盗み出す。
 明智探偵事務所に現れる。
 伊達五郎名で渋谷区にアジト構築。
 その正体はもちろん…。
杉本
…夜光人間が盗み出した
 推古仏の所有者。
赤森
…夜光人間が盗み出した
 白玉の仏像五体の所有者。
上山
…夜光人間が盗み出した
 翡翠の五重塔の所有者。
 息子・一郎は少年探偵団員。
〔捜査関係者〕
中村警部
…警視庁警部。
〔明智探偵事務所およびその関係者〕
小林芳雄

…明智探偵の少年助手。
 少年探偵団団長。
マユミ
…明智探偵の少女助手。
 明智探偵事務所にて
 夜光人間と対峙する。
木下昌一井上一郎上山一郎
…少年探偵団員。
ポケット小僧
…少年探偵団チンピラ別働隊所属。
 小柄ですばしっこい。
明智小五郎…私立探偵。

本作品の味わいどころ①
王道回帰へ、美術品を盗み出す二十面相

このところの二十面相は、
美術品を盗まず、
世間を騒がせることだけに
注力していた傾向が見られました。
本作品ではようやく
自分の趣味に立ち戻り、
美術品収集を再開しました。
喜ばしいかぎりです。
やはり美術品を盗み出さなければ
怪盗たり得ないのです。
例によって犯行予告を出した上での
二十面相マジック。
美術品は三件とも
巧妙に盗み出されます。

ただしその手口は、
「これ前にもあったよね」と
思わず呟いてしまうようなものばかりに
なってしまったのは
ご愛敬としか言いようがありません。
いいのです。
同じパターンをいくつ使っても。
おもしろければいいのです。

しかも今回は二十面相のコスプレも
夜光人間という手の込んだ
「化け物キャラ」を創りだし、
原点回帰しているのです。
初期作品では「妖怪博士」「青銅の魔人」
「魔法博士(「地底の魔術王」)」
「透明怪人」「宇宙怪人」
「鉄の人魚(「海底の魔術師」)」と、
手の込んだ
コスプレ・オンパレードでしたが、
「灰色の巨人」あたりから
それが停滞気味でした。
コスプレ第一作の「少年探偵団」では、
暗闇に溶け込む
黒い化け物「黒い魔物」でしたが、
今回はその真逆をつく「夜光人間」。
そこに意味はあるのか?
そんなことを考える必要はありません。
途中で正体がバレても
なお夜光人間コスチュームで
盗みを働く二十面相のこだわりに
拍手です。
王道回帰した二十面相のマジックを、
まずはじっくり味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
明智・小林少年・少年探偵団の好バランス

盗む方が原点回帰なら、
追う方もそれに倣っています。
少年探偵団シリーズは
途中から明智探偵が前面に現れず、
もっぱら小林少年と少年探偵団が活躍、
中にはチンピラ別働隊のポケット小僧が
主役級の存在を示した
エピソードもあるくらいです。
本作品では、小林少年、少年探偵団、
チンピラ別働隊、ポケット小僧、
それぞれが活躍の場を
与えられるとともに、
少女助手マユミも参戦、
明智小五郎も大人でなければできない
場面をしっかり抑え、
それぞれの役割を果たしています。
全員がバランスよく活躍している
明智ファミリーの底力を、
次にしっかり味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
顔をのぞかせる乱歩のサディスティック

最後は乱歩らしさが
ちょっぴり出ています。
防空壕内の落とし穴に陥った
小林少年とポケット小僧を、
二十面相は土砂・泥水を流し込んで
生き埋め(未遂)を企てるのです。
大人げないといえば
それまでなのですが、
それが二十面相であり、
それが乱歩なのです。
こうした場面をほどほどに差し込み、
乱歩は自身の趣味を加え、
愉悦に浸っていたのかもしれません。
わずかに顔をのぞかせる
乱歩のサディスティック趣味を、
最後にたっぷりと味わいましょう。

おそらく今の小学生では、
本作品を読んでも
満足できないのではないかと思います
(それ以前に、ネットに染まり、
本を読むこと自体が
難しくなっている可能性がある)。
もはやこの少年探偵団シリーズは、
かつて少年期に読んで
はまった大人しか
楽しめないものとなってしまったのかも
しれません。
少年時代に少年探偵団と出会えて
よかった。そう感じている
大人の貴方にお薦めします。
少年時代の心に戻って、
少年探偵団を愉しみましょう。

(2024.11.15)

〔青空文庫〕
「夜光人間」(江戸川乱歩)

〔「江戸川乱歩全集第21巻」〕
妻に失恋した男
秘中の秘
魔王殺人事件
奇面城の秘密
夜光人間
塔上の奇術師
ふしぎな人
かいじん二十めんそう
かいじん二十めんそう

〔関連記事:少年探偵団シリーズ〕

〔ポプラ社「少年探偵団」シリーズ〕

〔「江戸川乱歩全集」はいかが〕

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