「希望学」として体系化された、元気の出る一冊
「希望のつくり方」(玄田有史)
岩波新書
希望学の最大の特徴は、
多くの人の希望にまつわる声に、
何より耳を
澄ましてきたことです。
これが希望だと最初から大上段に
かまえて決めつけるのではなく、
希望についての
さまざまな切り口から
希望と社会の関係を
発見しようと…。
「希望を持って頑張ろう」という声かけを
よく聞くのですが、
ではその「希望」とは何か?
今まで考えてもみなかったのですが、
改めて問われてみると
一向にわかりません。
それを学問として体系化したのが
「希望学」であり、
それを切り拓いた著者が、
一般の人間にも「希望」について
わかりやすくかみ砕いてくれたのが
本書「希望のつくり方」なのです。
〔本書の構成〕
はじめに
第1章 希望とは何か
第2章 希望はなぜ失われたか
第3章 希望という物語
第4章 希望を取り戻せ
おわりに――希望をつくる八つのヒント
あとがき/参考文献
本書の味わいどころ①
「希望」とは何かの一つの解答
「希望」。
甘く心地良い響きの言葉であり、
日常的によく聞くし、
よく使う言葉なのですが、
これほどわかりにくいものは
ないでしょう。
「第1章 希望とは何か」では、
そのわかりにくい「希望」を、
いくつかの角度から説明しています。
詳しくは読んでいただくものとして、
興味深いのは
「希望がない」状態の分析です。
「希望がない」状態は、大きく分けると
「現状に満足している」ために
「希望を持つ必要がない」状態、そして
「現状の改善の見通しを
持てない」がために
「希望を持つことができない」状態、の
二つになるとのことです。
「希望」の概略を捉えることができます。
さらにこれまでの研究を踏まえて、
著者は次の四つの柱から
「希望」が成り立っているという見解を
説明しています。
「気持ち」「何か」「実現」「行動」の
四つです。この点についても
読んでいただくものとして、
「希望」を分析的論理的に捉えた、
これまでにない新書です。
眼に見えない「希望」というものに対する
一つの解答が得られる、それが
本書の第一の味わいどころといえます。
本書の味わいどころ②
「希望」の失われた現状の解説
「第2章 希望はなぜ失われたか」で、
その「希望」が失われている
現代について、その原因が
何であるのか考察しています。
仕事に「希望」を求めようとする
日本の特徴、
少子高齢化の問題、
収入の多寡との関連、
教育の在り方など、
考えられる背景を丹念に掘り起こし、
「希望」との関わりを説明しています。
それらは日本における
現代社会の諸問題を炙り出すとともに、
なぜ「希望」が持てない社会に
なってしまったか、
その原因を詳らかにしています。
「希望」の失われた現状を知ることは、
現代を生きる私たちのこれからを
考える上で大切なものばかりであり、
それこそが本書の
第二の味わいどころとなるのです。
本書の味わいどころ③
「希望」の持てる未来への提言
その上で著者は、
「希望」の見えにくくなった現代人への
処方箋として、
未来に対するいくつかの提言を、
「第3章 希望という物語」
「第4章 希望を取り戻せ」で
行っています。
「希望」の物語性、
「希望」の持ち方や育み方、
「希望」に関わる政策の在り方、
個人の行動の起こし方など、
それは多岐にわたっています。
「希望」を持つことができないでいる
現代の若い人たちへの、
人生の道しるべともいえる内容です。
これこそが本書の肝であり、最大の
味わいどころとなっているのです。
「希望」について、
よくある自己啓発本に見られるような、
「結局わからない」だとか
「心の有り様」のような、
安易な逃げの姿勢は一つもありません。
科学的に分析し、「希望学」として
体系化されているのです。
2010年の出版ですので、
かれこれ十年以上の
時間が過ぎているのですが、
鮮度はまったく落ちていません。
今回、再読しましたが、
やはり元気の出る一冊です。
ぜひご賞味ください。
(2024.11.25)
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