「ブルックベンド荘の悲劇」(ブラマ)

盲人探偵、使い分けする相棒二人

「ブルックベンド荘の悲劇」
(ブラマ/井上勇訳)
(「世界推理短編傑作集2」)
 創元推理文庫

依頼人ホリヤーは、
姉ミリセントが夫から
殺されかけていることを、
盲人探偵カラドスに打ち明ける。
彼女は除草剤入りのビール瓶を
食器棚から発見し、
恐怖におののいていた。
夫の殺人計画阻止のため、
カラドスが調査に乗り出す…。

シャーロック・ホームズ登場以降、
探偵小説作家たちは、
新たな探偵チャラクターづくりに
腐心したことでしょう。
ホームズをはじめとする
他の探偵たちといかに差別化を図るか。
アーネスト・ブラマの生み出した
探偵マックス・カラドスはなんと盲人。
目が見えないのに探偵ができるのか?
できるのです。

〔主要登場人物〕
マックス・カラドス

…盲人の素人探偵。
 妻殺害計画の阻止に乗り出す。
ルイス・カーライル
…カラドスの相棒的存在。弁護士。
ハリス・パーキンソン
…カラドスの使用人。
ビーデル警部
…所轄する警察署の警部。
ホリヤー大尉
…依頼人。姉が夫によって
 殺害されようとしていることを
 カラドスに相談する。
ミリセント・クリーク
…ホリヤーの姉。
 夫に殺害されようとしている。
オースティン・クリーク
…ミリセントの夫。陰湿な男。

本作品の味わいどころ①
盲人探偵、使い分けする相棒二人

さすがに目が見えない状態で、
一人で捜査にあたるのは無理です。
相棒は
カーライルとパーキンソンの二人。
ホームズとワトソンのように
コンビではなく、
カラドスはトリオで
調査活動を行っているのです。

カーライルは「弁護士」であり、
「事務所」を持ち、「部下」が
いるということが書かれてあります。
法律に詳しく、
部下を使って捜査が可能であり、
かなり心強い相棒といえるでしょう。
また本事件の依頼人も、
直接カラドスを訪問したわけではなく、
カーライルを通しての相談でした。
顧客紹介の役割も
果たしているのですから、
ビジネス・パートナーでも
あるのでしょう。

パーキンソンは本作の文章から
判断すると、従僕もしくは
使用人といったところでしょう。
オースティンの写真を一目見て
すぐ持ち主に返却したところを見ると、
記憶力は抜群と考えられます。
また、ブルックベンド荘まで車を運転し、
探偵の現地捜査を補助しています。
この相棒は、盲人探偵の目と脚に
なっていることがうかがえます。

部下つき弁護士カーライルと
優秀な使用人パーキンソンの
二人を使い分ける盲人探偵。
探偵とその相棒二人の活躍を、
まずはじっくり味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
盲人探偵、大胆不敵にも違法捜査

多くの探偵が、大なり小なり
違法捜査に手を染めているのですが、
この盲人探偵も然りです。
オースティン宛ての電報を
「なりすまし」的手法で
強引に入手してしまうのです。
まあ、警察ではできない方法を
やってしまう、それが探偵であって、
探偵小説の一つの
醍醐味となっているのです。
目くじらを立てることなく、
盲人探偵の大胆不敵な違法捜査を、
次にしっかり味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
盲人探偵、スリリングな犯人逮捕

違法捜査以上に大胆不敵なのは、
犯人逮捕に至るまでの経緯です。
オースティンの計画している殺人方法を
あらかじめ無効化した上で、
彼の実行を待つのです。
罠を仕掛けているのですが、
現代であれば犯罪を誘発していると
受け止められても仕方のない手法です。
いいのです。
それこそが探偵小説の味わいです。
規則でがんじがらめにされた
警察機構にできないことでも
やってしまう。
読み手にスリルを味わわせることが
大切なのです。
手に汗握る犯人逮捕劇を、
最後にたっぷりと味わいましょう。

ただし、最後に表題どおりの
「悲劇」が訪れます。
それもまた本作品の味わいの一つです。

気になるのは、
盲人探偵を売りにするのであれば、
例えば常人では
聞きわけることのできない音を
聞き分けてトリックを見破る
(聞き破る?)だとか、
ちょっとした声質の変化から相手の
感情を見抜く(聞き抜く?)だとか、
盲人でなければならない要素を
期待していたのですが、
本作品においては
不発に終わっています。この
盲人探偵マックス・カラドスの作品は
全部で27篇あるらしいのですが、
その中には
そうしたものがあるのでしょうか。

また、本作品だけでは
カラドスの素性が不明で、
今ひとつ楽しめません。
カラドスの盲目は
先天的なのか後天的なのか、
探偵業は素人らしいのですが、
その生活はどうなっているのか
(パトロンもしくは財産があるのか)、
さりげなく盛り込まれていれば
助かったのですが、雑誌連載の際、
作者はそこまで
気にしなかったのかもしれません。

同様に、カーライルの呼称を一か所
「弁護士」とあったために、彼の職業を
読み取ることができるのですが、
それがなければ
いったいどんな身分なのか不明です。
警察のビーデル警部にしても、
殺人が行われようとしているところを、
素人探偵の指揮下に入って
犯人逮捕にこぎ着けるなど、
どうしてそのような関係性と
なっているのかまったく分かりません。
本作品単独ではその魅力に、
十分に迫ることはできないのです。
こればかりは致し方ありません。
創元推理文庫より
「マックス・カラドスの事件簿」が
出版されています(現在は絶版中)。

そちらを読んで、
さらに深く味わってみたいと思います。

(2024.12.6)

〔「世界推理短編傑作集2」〕
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奇妙な足音 チェスタトン
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