好男子と若夫人の恋愛遊戯の行方は…?
「いたずらな恋」(横溝正史)
(「空蟬処女」)角川文庫
(「横溝正史ミステリ
短篇コレクション⑥」)柏書房
自他共に認める
好男子の磯部富郎は、
音楽会で近づきになった
五十嵐夫人から、
自宅を訪問するよう誘われる。
夫人宅は、若い男性文化人の
社交場のようになっていた。
やがて彼は夫人から
悩みを相談されるまでになる。
夫人の悩みは…。
1926年発表の、
横溝正史の短篇作品です。
美貌の若夫人の悩みとは、
かつて戯れで書いた恋文をネタに
脅迫されているというもの。
さて、好男子・磯部富郎は
どう解決するか?
それが本作品における
ミステリの骨子となっているのです。
〔主要登場人物〕
磯部富郎
…青年画家。
映画俳優のY・Hと瓜二つの好男子。
「わたし」
…語り手。
本作品は入れ子構造となっていて、
その額縁部分の語り手。磯部富郎の
艶話(本編部分)を聞かされる。
五十嵐仙太
…船成金。年齢は五十を超えている。
五十嵐夫人
…仙太の妻。年齢は二十代後半。
神森
…ピアニスト。夫人宅の訪問客の常連。
五十嵐夫人を脅しているらしい。
「警官」
…神森宅から逃走した磯部を
職務質問する。
遠藤
…夫人宅の訪問客の常連の一人。
本作品の味わいどころ①
好男子と若夫人の恋愛遊戯の行方は…?
磯部富郎は自他共に認める好男子。
映画俳優そっくりなのですから、
女性にモテまくりです。
しかも明るく屈託のない性格、
社交的で口上手なのですから、
色恋沙汰も多々あるのです。
一方の五十嵐夫人は、
夫と三十歳近く年齢差のある若奥様。
しかも積極的で遊び好き。
初老の男性の妻として、
慎ましく貞淑にしているような
女性ではないのです。
そんな二人が出会ったのですから、
大人しく終わるはずはありません。
危ない二人の恋愛遊戯の行方を、
まずはじっくり楽しみましょう。
本作品の味わいどころ②
磯部富郎の強引な探偵行動の行方は…?
夫人からの相談は、
かつてたわむれに書いた恋文をネタに、
ピアニストの神森から
強請られているというもの。
並み居る夫人の男友達の中から
ただ一人自分が選ばれたのですから、
磯部富郎が燃えないはずがありません。
その「難事件」の解決に向け、
磯部富郎が動き出すのです。
「奥さん、だいじょうぶですよ、
僕に委せておおきなさい。
決して悪いようには
いたしませんから」。
頼もしいかぎりです。
ところが、
脅迫の元凶となっている「手紙」を
神森から奪い取るために
磯部富郎のとった行動は、
それを「盗み出す」こと。
磯部が探偵役を務めるのかと思えば、
なんと泥棒役。
「悪いようにはいたしませんから」と
宣言した割には、
失敗すれば最悪の事態を招く
危険な方法です。
さて彼はいったいどんな策を持って
手紙を盗み出すのか?
磯部富郎の探偵行動ならぬ
泥棒行為の行方を、
次にしっかり味わいましょう。
本作品の味わいどころ③
難事を乗りきったミステリの行方は…?
無事手紙を盗み出した磯部富郎ですが、
難事は実は、盗み出したそのあとに
待ち構えていたのです。
神森と出くわし、
さらに通りかかった「警官」に
突き出される始末です。
彼はいったいどうやって
切り抜けるのか?
難事を乗りきった後の
ミステリの行方を、
最後にたっぷりと味わいましょう。
しかしそれで終わりではありません。
磯部富郎が「わたし」に語って聞かせる
後日談こそが、
大どんでん返しとなっているのです。
ミステリのすべての種が明かされる、
終末の額縁部分こそ、
本作品の肝であり、最大の
味わいどころとなっているのです。
ぜひ満喫してください。
さて、戦後の金田一ものしか
読んだことのない方にとって、
本作品の「軽さ」には
違和感を感じるかもしれません。
しかし戦前の横溝の作風の一つが
「コント」だったのです。
大正末期、江戸川乱歩をはじめとする
猟奇的な探偵小説が
流行っていたその一方で、
雑誌「新青年」の編集部に勤務していた
横溝は、
当時のモダニズムを取り入れて
ユーモア小説を積極的に
掲載していくのです。
本作品はまさにその時期に発表された
作品なのです。
時流をしっかり読み切り、
読者の求めるものを
提供しようとした姿勢が色濃く現れた
作品と考えるべきでしょう。
(2024.12.13)
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