百年におよぶ白熱した研究最前線がおもしろい!
「遺伝暗号のナゾにいどむ」(岡田吉美)
岩波ジュニア新書
一九〇〇年から一九六〇年に
かけての六〇年間は、
生命科学にとっては、
革命と興奮の時代だったのです。
そしてこの時代に生まれた
分子生物学の、遺伝暗号の
ナゾにいどんだ研究成果こそが、
現在のはなやかな
生命科学の時代を…。
(「あとがき」から)
前世紀末から世の中はすでに
ゲノムの時代に入っていて、
遺伝子組替やクローン技術、
テーラーメイド医療や遺伝子治療など、
遺伝子に関わる技術や話題が
次々と現れてきました。
しかしその遺伝子が
どのように発見され、
そこにどんな物語が潜んでいるのか、
私たちは知らないままに
生きているのです。
そんな中で素敵な一冊に出合いました。
岩波ジュニア新書の一冊、
「遺伝暗号のナゾにいどむ」です。
〔本書の構成〕
はじめに
年表Ⅰ/年表Ⅱ
1 遺伝子が見つかった
2 本体はDNA?
3 遺伝情報の流れをさぐる
4 遺伝情報の伝わるしくみにせまる
5 暗号解読にいどむ
6 ゲノムの時代へ
おわりに
詳しくはこちらから(出版社HP)
本書の味わいどころ①
遺伝の本質DNAをやさしく解説
「遺伝子」そして
その本質である「DNA」について、
わかりやすく解説しています。
第1章「遺伝子が見つかった」では、
中学校理科の教科書にも登場する
メンデルの研究成果
(エンドウの交配実験から導かれる
「メンデルの法則」)からスタートし、
それ以降の遺伝の研究についてが
語られます。
第2章「本体はDNA?」では、
こちらも中学校で学習する、
DNAの二重螺旋構造の分子モデルと、
ATGCの塩基配列等について
述べられています。
中学生にとっては、
発展的な学習の道標として、
高校生にとっては、
生物の教科書の補助資料として、
そして大人にとっては、
学び直しのテキストとして、
十分に活用できる内容であり、
それが本書の第一の
味わいどころとなるのです。
ただし、第3章以降は、
生物的知識が極めて高いレベルとなり、
高校生物を履修していないと
理解できない部分が多々登場します。
しかし、わからない語をスルーしながら
全体の大意をつかみ取ることも
読書では大切な技能となります。
中学生や
生物を履修していない高校生にとっては
そうした読み方が必要になるでしょう。
本書の味わいどころ②
遺伝子暗号解読までの歴史を俯瞰
もはや教科書で学習する
「普遍の知識」となってしまった「遺伝」。
しかしその研究の歴史は近年のこと、
それも冒頭に掲げたとおり、
1900年から1960年までの60年間に
集約された濃密な歴史なのです。
本書を読むことにより、
メンデルの研究から
遺伝子暗号解読までの歴史を
俯瞰することが
できるようになっているのです。
単に知識を学び取るだけでなく、
それに関わる
科学史の知見を得ることこそ、
深い学びにつながります。
それが本書の第二の
味わいどころといえるのです。
本書の味わいどころ③
百年におよぶ白熱した研究最前線
理科生物も、高校内容ともなると
とかく難しくなりがちです。
中学校理科教師の私でさえ、
何度も参考書を確認しながら
読み進めました。
しかし本書は難しさよりも面白さの方が
前面に押し出されています。
それは研究者たちの白熱したドラマ
(もちろんノンフィクション)が
描かれているからです。
しかもこの遺伝研究については、
「物理学者vs生物学者」
「若手研究者vs古参研究者」の競争
(というよりはまさにバトル)が、
新鮮な物語性を持って
読み手に迫ってくるのです。
高度で難解な研究の裏側で、
このような人間くさい物語が
展開していたのかと
驚かされるばかりです。
このドラマこそ、
じっくりと堪能すべき本書の肝であり、
本書の最大の
味わいどころとなっているのです。
私は高校在学中、
物理と化学を選択したため、
生物を履修していません。
もし高校生の頃、本書と出会ったなら、
物理を捨てて
生物を選んでいたかもしれません。
そして生物の面白さに気づき、
今とは違った生き方を
模索していた可能性もあります。
そうした意味でも、
本書を高校生のあなたに
お薦めしたいと思います。
もちろん大人の貴方が読んでも
その面白さは十二分に
味わうことができるはずです。
ぜひご賞味ください。
(2024.12.16)
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