子どもにとっては優しすぎ、大人にとっては難しすぎる
「長くつ下のピッピ」
(リンドグレーン/尾崎義訳)
講談社文庫
長い細い足には、
長くつ下をはいていましたが、
片方が茶色で、片方は黒でした。
それに、じぶんの足の
倍くらいもある
大きい黒ぐつをはいていました。
そのくつは、
ピッピが大きくなっても
はけるようにと、
パパが南アメリカで…。
すでに絶版となっている
講談社文庫の古い一冊を
本棚の奥から取りだし、
再読してみました。
リンドグレーンの
「長くつ下のピッピ」です。
筋書きなどないに等しい
童話なのですが、
世界中の子どもたちに読み継がれた
名作です。
改めて読んでみると、
やはり独特の面白さを
味わうことができました。
〔主要登場人物〕
ピッピ
…両親に先立たれ、
一人で暮らしている女の子。9歳。
フルネームを本人は
「ピッピロッタ・ビクチュアリア・
ルルガディーナ・…」と説明している。
ニルソンくん
…ピッピとともに暮らす小猿。
「うま」
…ピッピとともに暮らす馬。
トミー・セッテルグレーン
…ピッピの住む家の近くの家の男の子。
アンニカ・セッテルグレーン
…トミーの妹。
ビッレ
…町のいじめられっ子。
ベングト
…いじめっ子五人組のガキ大将格。
「おまわりさんたち」
…二人組の警官。
ピッピを保護しようとするが…。
「先生」
…トミーたちの通う学校の先生。
「おばさん」
「サーカス団長」
ミス・カルメンチータ
ミス・エルビラ
アドルフ
…以上、サーカス団のメンバー。
ブロム、カールソン
…二人組の泥棒。
ピッピの家に侵入するが…。
セッテルグレーンおばさん
ベルイグレーンおばさん
グラーンベルイおばさん
アレクサンデルソンおばさん
…以上、セッテルグレーン家に
集まったお茶友だち。
〔本書の構成〕
ピッピの家ビッレクッラ
ピッピの大げんか
ピッピとおまわりさんのおみやげ遊び
ピッピ、学校へいく
ピッピの木のぼり
ピッピの遠足
ピッピのサーカス見物
ピッピの家へどろぼうがはいる
ピッピがコーヒーパーティーへ
ピッピの誕生日
本作品の味わいどころ①
逆境を解しない幸福なピッピ
両親に先立たれただけでも
大きな逆境です。
現実的に考えると、
心が折れてしまって当然です。
さらにその容姿が
赤毛で顔中そばかすだらけとなれば、
気にする子どもも多いでしょう。
しかしピッピはめげたりしません。
だからといって歯を食いしばって
耐えているわけではありません。
そうした逆境を
そもそも理解していないのです。
メンタルが強い上に、
生まれつき負の感情を
持ち合わせていないのでしょう。
その振る舞いは、「人生何とかなる」と、
逆境に置かれた子どもたち
(だけに限らず大人たちにも)に
勇気を与えるはずです。
逆境を解しない幸福なピッピの姿を、
まずはじっくり味わいましょう。
本作品の味わいどころ②
最強の女の子としてのピッピ
ピッピはただの女の子ではありません。
スーパー・ガールなのです。
「大げんか」では町の五人組の
いじめっ子集団を軽くあしらい、
「おまわりさんのおみやげ遊び」では
警官二人を手玉にとり、
「どろぼうがはいる」では
二人組の泥棒をこづき回し、
「サーカス見物」では
怪力アドルフをねじ伏せます。
ジェンダーフリーの先駆けのような
この設定は、世界中の女の子たち
(だけに限らず男の子たちにも)の
胸をときめかせたはずです。
最強の女の子としてのピッピの姿を、
次にしっかり味わいましょう。
本作品の味わいどころ③
奔放な自由人としてのピッピ
左右色違いの長靴下とぶかぶかの黒靴。
赤い布のつぎはぎだらけの青い服。
猿はともかく馬まで屋内で飼う
(一緒に暮らす)。
床に水をぶちまけて
ブラシをつけた靴で掃除する。
学校にはいかず家で楽しく暮らす。
ピッピは何ごとも
自由気ままに振る舞うのです。
大人たちのいうことに従おうとせず、
心の命ずるままに生きる。
その姿はピッピと同年齢の
ギャングエイジの子どもたち
(だけに限らずすべての人間)に
憧憬と共感を持って
迎えられたはずです。
奔放な自由人としてのピッピの姿こそ、
本作品の肝であり、最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと堪能しましょう。
さて、人は
自由奔放に生きることに憧れながらも、
世の中で揉まれ、
それができなくなった状態で
大人になっていくのでしょう。
本作品は、大人には
共感が難しいのではないかと思います。
「コーヒーパーティーへ」での
おばさん連に対するピッピの言動は、
大人が読むと「痛い姿」としてしか
感じられないかもしれません。
子どもにとっては優しすぎ、
大人にとっては難しすぎる。
それが優れた児童文学の
姿なのかもしれません。
大人のあなたにこそ、お薦めします。
(2025.1.1)
〔「長くつ下のピッピ」の本について〕
1964年の初の邦訳以来、
いくつかの本が出版されています。
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