
「自立」「教養」そして「成長」が描かれている
「ルドルフとイッパイアッテナ」
(斉藤洋)講談社文庫
トラックの荷台にのったまま
気を失っていた黒猫のルドルフ。
目が醒めたとき、そこは
見たことのない東京の町だった。
大きなからだの猫・
イッパイアッテナから
「教養」について
教えられたルドルフは、
のら猫として
生きる決意をする…。
全5作まで描かれた
斉藤洋の「ルドルフシリーズ」。
劇場アニメ化もされるなど、
1980年代に刊行されて以降、
児童文学の名作としての位置づけが
定着しました。
本書は2016年、映画化に合わせて、
シリーズ第1作を文庫化したものです
(第2作も同時に文庫化、
第3作以降は文庫化されなかった)。
〔主要登場人(猫)物〕
ルドルフ
…飼い主は小学生のリエちゃん。
トラックに乗ったまま気絶し、
東京まで運ばれる。
イッパイアッテナ
…ルドルフが東京で出会ったトラ猫。
神社に住みながら
様々な人間と交流して生きている。
読み書きができる。
ブッチー
…商店街にある金物屋の飼い猫。
デビル
…かつてイッパイアッテナの飼い主の
隣家に飼われていたブルドッグ。
イッパイアッテナを
だまし討ちにする。
クマ先生(内田先生)
…小学校教師。専門は美術らしい。
重傷を負ったイッパイアッテナを
動物病院へ搬送する。
おばあさん
…イッパイアッテナの知人の一人。
ルドルフには魔女のように見えた。
給食のおばさん
…給食室の調理員の二人。
イッパイアッテナの知人。
魚屋のおにいさん
…商店街の魚屋のおにいさん。
イッパイアッテナの知人の一人。
本作品の味わいどころ①
自由に生きることの意味
ルドルフは、
それまで生活していた岐阜から、
予期せぬ形で
東京へと運ばれてしまいました。
それは単に場所の移動のみならず、
「飼い猫」から「のら猫」への転身を
余儀なくされたことを意味します。
その立場の違いは
大きなものがあります。
「飼い猫」は、
行動の自由は少ないものの
生活は保障されています。
「のら猫」は、
自由な生き方ができるのですが、
生きるために必要なことは
すべて自分の責任で
行わなければならないのです。
ルドルフの東京での生活は、
イッパイアッテナから、まさにその
「生きるために必要なこと」を教えられ、
「自立」を果たしているのです。
その姿は、
「自由」は「自立」の上に
成り立っているという、
当然のことを気づかせてくれます。
「自由」は「勝手気まま」でもなく
「自分本位」でもなく、
周囲との関係を保ちながら
「自立」していくことなのです。
この点こそ、
本作品の第一の味わいどころであり、
子どもたちに
気づかせたいところでもあります。
本作品の味わいどころ②
教養を身につけることの意味
この「猫物語」の特徴は、
イッパイアッテナが読み書きでき、
それをルドルフが
学び取るということでしょう。
なぜ猫が教養を
身につけなければならないのか?
それはイッパイアッテナの行動から
読み取れるしくみになっています。
イッパイアッテナは
教養を身につけた結果として、
喧嘩の相手であっても
その立場を考えることができています。
犬との喧嘩において、
有利になるからといって
相手の目にする攻撃は
していないことが語られます。
失明させるとその後の生活に
大きな支障をきたすからであることも
添えられています。
イッパイアッテナは
教養を身につけた結果として、
相手を蔑んだりもしません。
字を読めるようになったルドルフが
読めないブッチーに対して
優位に立とうとすることを
諫めています。
イッパイアッテナは
教養を身につけた結果として、
他者との共存の大切さを理解し、
実践しています。
猫にとってある意味
最も脅威となり得る人間とも
共存していこうとしているのです。
人間に攻撃された結果として
東京に流れ着くことになったルドルフと
巧みに対比させているのです。しかも
「学習」や「学問」という言葉を使わず
「教養」もしくは「キョウヨウ」と
記されている点にも
奥ゆかしさが感じられます。
一通り読み終えると、
学ぶことの意味について、
実に丁寧に解説されていると
感じるはずです。
学ぶことは自らの能力を
高めることなのですが、
それは他者を圧倒するためや
優位に立つためではなく、
他者を理解し、他者と共存するために
必要なものなのです。
この点こそ、
本作品の第二の味わいどころであり、
子どもたちに
気づかせたいところでもあります。
本作品の味わいどころ③
仲間と共に生きることの意味
やはり最後の場面が秀逸です。
自分のために怪我をした
イッパイアッテナ。
その敵討ちとして、ルドルフは
ブルドッグのデビルに対して
果敢に挑むのです。しかしそれは
野蛮な仇討ちでもなければ、
無謀な玉砕でもありません。
見通しと戦術を持って、
しかも落としどころまで
考えられているのです。
岐阜に帰るチャンスをふいにしても、
「この先、また機会がある」と割り切り、
仲間とともに生きることを選んだ
ルドルフ。
そこにはまさに「自立」を果たした姿と
「教養」を身につけた精神が
描かれているのです。
これこそが「成長」というものです。
この点こそ、
本作品の最大の味わいどころであり、
子どもたちに
気づかせたいところでもあります。
素敵な作品です。
本当に素晴らしい児童文学は、
大人が読んでもその魅力をたっぷり
味わえる構造となっているのです。
未読の方、ぜひご賞味ください。
(2025.1.27)
〔斉藤洋:ルドルフシリーズ〕
冒頭に記したように、
第2作も文庫化されています。
第3作以降は単行本で愉しみましょう。
映画も面白そうです。
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